Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021

連載東北からの便り

2020年リレー日記

2020

8

8月24日-30日
鈴木 拓(boxes Inc. 代表)

8月24日(月)

天気|晴天

場所|仙台市内の事務所

朝から不穏なメールが届く。調べたけど特に大事ではなさそうだ。もう随分と、こういう話題には敏感になってしまっている。神経が昂っていて、冷静さを保つことにエネルギーを使っている感じ。
お昼過ぎに思い立って、前から欲しかったちょっと良いカメラを注文。当たり前だが納期未定。5月の自粛期間中に注文しなかったことを後悔する。まあ、しょうがないけど。
翌日のマッサージの予約を入れる。ネットワークのメルマガのテキストを整える。勉強会のアーカイブ動画を編集し、YouTube にアップロード。楽しみにしていたオンデマンド配信のチケットを購入する。オープニングだけ再生、これは後でゆっくり観たい。
2011年から続いている「文化芸術による子供育成総合事業(芸術家の派遣事業)[東日本大震災復興支援対応]」の準備。よく10年も続いているなぁ&最後の年にこの試練はないぜ、と心の中で叫びながらデスクワーク。変化が求められているが、やはりこの体制は身動きが重い。
前夜に知った、僕にとっては衝撃的な事実が一日中頭から離れない。「そんなことあるんだ!」と何度も頭の中を繰り返す。理解できないことが続くと、それはそれでハイになる。
ずーっと探していたある作品をたまたま発見する、これ以上ないタイミングで。何かを示されているような気持ちになる。良い気分ではない。

8月25日(火)

天気|晴天

場所|仙台市内の事務所

朝から、ホームページの作業。
シャワーを浴びてマッサージへ。最近やっと相性のよいマッサージ屋さんに出会えた。コロナ禍でデスクワークが増えた分、定期的に通っているが、身体と折り合いをつけていく感覚が歳と共に強まっている。ただの老いかな。
お昼に、今日は本当はパラリンピックの開会式だったと知る。洗濯、コインランドリーへ。ネットワークのデスクミーティング。
夜はZoomで文化芸術による子供の育成事業のチームミーティング。たった6人だけどコロナとの距離感がそれぞれ違っていて、すり合わせるのに時間がかかる。だが、必要な時間。ガイドラインって、ガイドラインへのガイドが必要なんじゃないかとふと思う。ひきつづき解消されない問題について、少しだけ前進。

8月26日(水)

天気|晴れ

場所|仙台市内の事務所

知り合いの俳優さん&スタッフさんと、文化庁の「文化芸術活動の継続支援事業」の申請にチャレンジ。実施に申請画面に行ってみて分かること多し。これは申請類に慣れてないとやっぱり厳しい。試行錯誤しながら申請完了。
夜にネットワーク事務局会議。この会議もう5月から毎週2回欠かさずにやっている。すごい。スピードも密度も熱量も。みんな舞台芸術の未来を見据えている、憂いている。震災の時は、備えていなかったことを猛省し(そんな想像もできなかったから難しかったけど)、今が災害以前を生きていることを自覚したのだけど、この状態は想像してなかった(これもあたりまえだけど……)。そう思うとコロナ禍とか、コロナ後って、なにを意味するのだろうか? 学びが足りない気がして、焦る。間違いなくチャンスではある。想像したくないことほど、強く想像してしまう。

2020年8月27日(木)

天気|晴れと曇り

場所|仙台市内の事務所

継続支援事業の共同申請に向けた作戦ミーティング。同じ目線で戦える同志は心強い。あとは周囲を巻き込むロジックとエネルギー。
ひたすらホームページの構築。ホームページというか、なんちゃってSEみたいな作業。いくつかのサービスを組み合わせて、必要なソリューションを作る、みたいな。冷蔵庫のありものでご飯を作ったり、端材で小道具作ったり。そういうのは楽しい。どこまでいってもなんちゃってなので、人生苦労している気がするが。
夕方、翌週ローンチする予定のシステムについてチームで話す。まずは始めてみる。良きチーム、作っていくのは楽しい。
依然問題加速中。知らないことに向き合うことは可能なのか? 震災の時の感覚に似ている。

8月28日(金)

天気|晴れと曇り

場所|仙台市内の事務所と福島県南相馬市小高

事務所の電気工事をすることに。電気屋さんの内見。ほとんど事務所でのデスクワークになり、環境を整えたら電力不足になってしまったのである。60A契約なので配線の問題でもあるが、この部屋に電力が足りない。賃貸なのだが、分電板に書いてあった電気屋さんと話す。せっかち。
ネットワークのデスクミーティング。今後の展開のためにウェブ会議システム「Remo」を試す。楽しいけど、重い、登録しづらい、日本語ローカライズされていない。ちょっと保留。時間の流れが早すぎて、ToDoが置いてかれる。週末が近い。
夕方、南相馬市小高へ。撮影や諸々の準備。車中でZoom会議。夜、話し合い。解決は目的じゃないかもしれないけど、顔は上げたい。

8月29日(土)

天気|晴れ

場所|福島県南相馬市小高と仙台市内の事務所

ひきつづき話し合い。お昼ご飯を食べて、予定より早く帰仙。
夜、ネットワーク事務局会議。検討事項多数。

8月30日(日)

天気|晴れ

場所|仙台市内の事務所

継続支援事業の共同申請作戦会議。大体の戦略を共有。問題になりそうな事項を洗い出す。まだいくつかハードルあり。意思確認へ。
夕方、2日後に迫ったサポートの模擬テスト。やってみてわかること多数。こういう時に判断できる状況を預けられていると助かる。早速修正。
夜、小劇場のみなさんとミーティング、情報共有。全国各地で各々が戦っている。そりゃそうだ。今後のことで意見交換。
寝床の環境改善を試みる。資材が足りずに頓挫。気分を変えたかったのだが……。
分かることと、分かり得ないことを知ることに差異はあるのか。結局、2011年に生じたさまざまな感情はそのまま成仏せずにいる。前に進むことも、後ろを振り返ることも許されないような。せめて顔を上げてはおきたい。

バックナンバー

2020

6

  • 是恒さくら(美術家)
  • 萩原雄太(演出家)
  • 岩根 愛(写真家)
  • 中﨑 透(美術家)
  • 高橋瑞木(キュレーター)

2020

7

  • 大吹哲也(NPO法人いわて連携復興センター 常務理事/事務局長)
  • 村上 慧(アーティスト)
  • 村上しほり(都市史・建築史研究者)
  • きむらとしろうじんじん(美術家)

2020

8

  • 岡村幸宣(原爆の図丸木美術館 学芸員)
  • 山本唯人(社会学者/キュレイター)
  • 谷山恭子(アーティスト)
  • 鈴木 拓(boxes Inc. 代表)
  • 清水裕貴(写真家/小説家)

2020

9

  • 西村佳哲(リビングワールド 代表)
  • 遠藤一郎(カッパ師匠)
  • 榎本千賀子(写真家/フォトアーキビスト)
  • 山内宏泰(リアス・アーク美術館 副館長/学芸員)

2020

10

  • 木村敦子(クリエイティブディレクター/アートディレクター/編集者)
  • 矢部佳宏(西会津国際芸術村 ディレクター)
  • 木田修作(テレビユー福島 報道部 記者)
  • 北澤 潤(美術家)

2020

11

  • 清水チナツ(インディペンデント・キュレーター/PUMPQUAKES)
  • 三澤真也(ソコカシコ 店主)
  • 相澤久美(建築家/編集者/プロデューサー)
  • 竹久 侑(水戸芸術館 現代美術センター 主任学芸員)
  • 中村 茜(precog 代表取締役)

2020

12

  • 安川雄基(合同会社アトリエカフエ 代表社員)
  • 西大立目祥子(ライター)
  • 手塚夏子(ダンサー/振付家)
  • 森 司(アーツカウンシル東京 事業推進室 事業調整課長)

2021

1

  • モリテツヤ(汽水空港 店主)
  • 照屋勇賢(アーティスト)
  • 柳谷理紗(仙台市役所 防災環境都市・震災復興室)
  • 岩名泰岳(画家/<蜜ノ木>)

2021

2

  • 谷津智里(編集者/ライター)
  • 大小島真木(画家/アーティスト)
  • 田代光恵(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部 プログラムマネージャー)
  • 宮前良平(災害心理学者)

2021

3

  • 坂本顕子(熊本市現代美術館 学芸員)
  • 佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

特集10年目の
わたしたち