話題
オープニングトーク/世界の今日/こどもだったわたしは/あなたの“立ち上がりの技術”教えてください/わたしのレコメンど!/エンディングトーク
7月25日、「10年目をきくラジオ モノノーク」の第1回が放送されました。
パーソナリティはアーティストの瀬尾夏美とNPOの中間支援に携わる桃生和成。
場所は仙台の東北リサーチとアートセンター(TRAC)からお届けします。
まずは、パーソナリティ二人の近況報告から。桃生は6月からフットサルを再開、瀬尾は次の展覧会に向けての対話のワークショップを終えたところ。それぞれ久しぶりに対面での活動が動き出す中での気づきについて触れました。
「巣篭もり生活が続き、気づかないうちに自分の境界線を見失ってしまっていた人も、人と対面することでやっと自分を思い出すのでは」と瀬尾。「雑談するにもパワーがいることに気づいたり。いまは自分の身体のことを再確認してゆく時間かも」と桃生。
新たな災禍の中で生まれていく新しい技術があり、一方で、過去の出来事を忘れていってしまうことも実感する今日ですが、瀬尾は「モノノークは欲張りに両方やっていけばいいんじゃないかな!」と語り、桃生は「“欲張り”番組・モノノークですね」と応えました。
ということで欲張りに、現在のことも、過去のことも、未来のことも、記録していくラジオとして今年度いっぱいお届けしていきたいと思います。
イギリス・ロンドンにお住まいのアーティスト、本間かおりさんとお電話をつなぎました。
本間さんが震災後に始められた「Art Action UK」というアーティスト支援のレジデンスプログラムに、瀬尾と小森はるかが2014年に参加したご縁で、今回ご登場いただきました。
本間かおりさんとオンライン中継
イギリスでもコロナの感染が拡大しましたが、どのように日々過ごされてきたかをお聞きしました。本間さんが住んでいる地域は、ロンドンの中でも様々な人種の方が暮らし、アーティストたちが自由に表現する場があって人間くさい街だそうです。イギリスがロックダウンしたのは3月23日。本間さんの友人のアーティストにもコロナで亡くなられた方が数人いらっしゃり、厳しい状況を身近に感じているとのことでした。そんな中でも、周囲の人たちが自主的に、感染した方や職を失った方のために食料を届ける活動を始め、現在も続いているそうです。
欧米各国で広まっていた医療従事者に拍手を送る「clap for NHS」についても伺いました。毎週木曜夜8時に、ベランダに出て拍手を送ったり、鍋を叩いたり、なかには楽器を演奏する人、踊る人など、様々なパフォーマンスで医療従事者へエールを送るムーブメントがイギリスでも全国的に行われていたそうです。同時にこの時間が唯一、ご近所の方達と顔を合わせる機会でもあったとのこと。しかし、実際の現場ではマスクや防護服が不足していたり、医療従事者が亡くなっていたり、多数の報道によって過酷な現実が明らかになっていくとともに、「段々と、最前線に兵隊を送り出しているような後ろめたさを感じた」と本間さんは話されていました。最終的にはこの運動を始められた女性自身が、テレビを通じてやめる宣言をして終わったそうです。
震災後、ロンドンからできる支援は何かと考え、本間さんが自力で始められた「Art Action UK」というレジデンスプログラム。被災されたアーティストや、被災地域で活動するアーティストたちをロンドンの本間さんのご自宅に招聘し、アーティスト自身がしがらみを離れて色々と考えを巡らす機会になればと現在も続けていらっしゃります。そんな本間さんに、震災から10年が経つ中で感じられていることをお聞きしました。
「震災の痛みを負った人達が今も存在する中で、とにかく何が何んでも“復興”ということのみが優先されている事に疑問を感じています。人々の痛みや、想い、記憶、そして震災によって顕著にされた社会的問題をきちんと見つめた上でなければ、本当の意味での回復はありえないのではないかと思っています」と本間さん。
それに対して、瀬尾は「コロナによっても、元々あった様々な問題が明るみに出てきていますよね。そういうことも忘れずに向き合っていくことが大事ですよね」と話しました。
新コーナーの「こどもだったわたしは」が始まりました!
震災当時こどもだった人たちに、瀬尾がインタビューをし、書き起こした物語を朗読でお届けします。朗読の演出は屋根裏ハイツの中村大地です。
このコーナーを企画した思いについて瀬尾が話しました。
「震災当時は、自分の感情を語る言葉や技術、思考力がなく伝えられなかったこどもたち。一方で大人たちが求める無邪気な“こども像”があり、それは報道によっても伝えられ、こどもは被災地の“光”だったのだと思います。けれど、“光”であることによってこども達自身が自分を押さえていた部分があって、友達にも言えなかったこと、彼らが考え、葛藤してきたことが、いかに声としてきかれてこなかったのだろうということに気付きました。震災からも距離ができ大人になってゆく彼らから、10年目の今、言葉になることをききたいと思ったのが経緯です」
今回は、仙台市沿岸部の荒浜で、震災当時小学校5年生だった方にお話をききました。荒浜小学校という、津波の被害を受けて廃校となり、現在はメモリアル施設として全国から訪れるその場所が、彼のいた小学校です。その5年生の教室から始まる物語です。
瀬尾夏美《黒い空に浮かぶ》2020年
「黒い空に浮かぶ」(作:瀬尾夏美、朗読:瀧腰教寛)の音声、テキスト、ドローイング、執筆後記は「こどもだったわたしは」のページからご覧いただけます。
朗読をきいた桃生は「細かいところまで覚えているんですね。細部がとても印象的だった」と語り、「そうなんですよね。教室のどこに誰が座っていたか、水槽に何が泳いでいたか、全部覚えていて。しばらくは毎晩思い出していたそうなんです。何度も繰り返し思い出し続けてきたから、忘れる気が全然しないし、語る必要もないと言っていたのが印象的でした」と瀬尾。
小学5年生の小さな身体で経験してきたことが、ずっと繰り返し再生され続けてきたことで、思い出すことも必要なくなり、身体に染み付いてしまったそうです。「何十年経ってもそれが変わらずに同じ形であるとすれば、戦争を体験された方の75年前の記憶も、変わらない形で、いまきくこともできるのかもしれないですね。逆に、今回話してくれた彼がおじいさんになったときにも、同じ形で記憶が手渡されるのかもしれない」と瀬尾。桃生は「祖母のまさこさんも毎日戦争の話をするんだけど、いつも細かい話を繰り返し語っていて。そのこととも似ているかもしれない」と話しました。
「こどもだったわたしは」ではお話を聞かせてくださる方を募集しています。
自薦でも、他薦でも◎ ぜひ番組宛にメールをお送りください。
続いても新コーナー!「あなたの“立ち上がりの技術”を教えてください」は、東日本大震災やその他の災禍が契機になり、それまでと違うことを始めた人たちのエピソードを取り上げて、その背景や、そこで得た技術や考え方が、いまの生活にどのように生きているかなどをきき、現在に応用可能な“立ち上がりの技術”を見出していきたい、というコーナーです。被災地域などで活動してきた人たちへのインタビューや、別の災禍を経験し活動されてきた人たちの資料などを紹介していきます。
第1回目は福島県いわき市小名浜で活動するローカル・アクティビストの小松理虔さんにお話を伺いました。理虔さんの主宰するオルタナティブスペース「UDOK.」を瀬尾と桃生が訪ね、なんと3時間にわたるロングインタビューをさせてもらいました!
ローカル・アクティビストとして食、アート、福祉など様々な領域にある課題と関わりながら、自らが“メディア”となって伝え続けている理虔さん。「“素人”という立場だからこそ新しい関わり方をつくれるのでは」とお話しされていました。
小松理虔さんにインタビュー(いわき市小名浜にあるUDOK.にて)
番組では30分に抜粋したインタビューをお届けしました。後日、ロングバージョンもYouTubeチャンネルで公開予定です。
理虔さんにとっての“立ち上がりの技術”をお聞きしました。
「何か大きな出来事があると、自分は一度取り乱して、狼狽するんですよね。でも、その一旦混乱することが大事かもしれないと思います。混乱している自分を受け止めるというか。間違いながらもやっぱり正しかったんだとか、混乱するけどこういうことって大事だよねと気付いたり、混乱している状況が”立ち上がり”に必要なものかもしれないです」
何かのためではなく、自分のためにやるという軸を貫いている理虔さん。「犠牲となられた方にもやりたいことや夢があったと思うんです。その人たちのことを考えると、狼狽している自分とか、やりたくないけどやらなきゃと思う自分に対して、それでいいのか? って言われているような気がするんです。自分のやりたいことや歩みたいことをやらないと申し訳が立たないというか。だから、自分の人生を全うすることで弔おうという気持ちがあるんです。勝手な解釈なんですけどね」
UDOK.は2011年5月1日から始まったとのこと。震災翌日の3月12日から借りる予定だった場所は津波で被災してしまいます。これで諦めたくはないと2ヶ月後に現在のUDOK.の場所を借り、地域の中に集いの場を開いてきました。「勝手に復興計画をつくったり、とにかくいろんなことをやりました」と理虔さん。今は仕事場のようになっていて、これからこどもが小学生になったら学童のような場所になったり、歳を取ったらデイケアのような場所になったり、自分の暮らしとともにこの場所も変化していけば良いと考えているそうです。
有志の方たちとともに定期的に東京電力福島第一原子力発電所沖の海洋調査をおこなう、いわき海洋調べ隊「うみラボ」や、SNSでの情報発信について伺うなかで、福島の原発事故後の状況と現在のコロナ感染の状況の共通点があるという話しに。
理虔さん「数値や科学・医学が関わってくるという点も似ているけど、一番は日常の中で放射能やコロナだけがリスクのように思われてしまう点かもしれないです。今はコロナによって社会に出てきた課題を、コツコツと自分たちの手でできる範囲で解決していくしかない。ただそれを国に求めるよりも、自治体と顔を合わせながら交渉していくことが大事だと思っています。特にコロナの場合は、自治体の裁量が大きいですよね。例えば市議会議員の人や役所の人と交渉したり、まちづくりのレベルでいい地域にしていくことが問われているのではないかと思います。地域の中で間に入って作用する、半分民間・半分行政マンみたいな人がいるといいですよね」
最後に、震災から10年目を迎える今、思うことをお聞きしました。
「小名浜の人は基本的に「しゃんめぇ」(しょうがない)の精神で続けてきています。震災だけでなく台風の被害もありましたし、大変だけれど何かしら続けていかなければならない状態で、ずっと続けてきている。原発事故の影響でずっと避難状態が続いている人もいる。これまで日常を続けていくために敢えて語らずにいた人もいる。漁業からの視点だと、100年、200年、廃炉が終わるまでは終わらない。と思うと、10年はまだまだですよね。やっと言語化できたそれぞれの経験を10年目に語り合って、これから先20年後の別の語り口が生まれてくると思うんです。ということは、もはや永遠に終わらない。10年は全然初期なのかもしれないと思っています」
リスナーのみなさんから「レコメンど!」を募集して紹介するコーナー。ラジオネーム・あむさんから動画とともに投稿いただきました。
タイトルは「Talk to me what’s happened.」。「表現者 :犬、推薦者:私」とのことで聞いてみると、まるで言葉を喋っているかのような犬の鳴き声が! あむさんの愛犬まりんが、何か伝えようとしている様子を捉えた瞬間に、パーソナリティの二人も笑いが止まりません。
ということで、なんでもありの「レコメンど!」です。
みなさんからのおすすめのあれこれ、随時募集しております!
第1回のモノノーク、朗読からインタビューまで様々な声を2時間お届けしてきました。
次回は8月15日(土)21時からです。
終戦の日ですね。戦争を経験されたある方が教えてくださった“立ち上がりの技術”のエピソードもご紹介する予定です。
ON AIR曲
■ Anthony Joseph「Caribbean Roots 」
■ ふちがみとふなと「ヘブン」
■ オナハマリリックパンチライン「R・E・S・P・O 〜いつもここにある〜」
(執筆:小森はるか)