Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021

連載東北からの便り

2020年リレー日記

2020

7

7月6日-12日
大吹哲也(NPO法人いわて連携復興センター 常務理事/事務局長)

7月6日(月)

天気|くもり

場所|自宅(岩手県紫波町)⇔事務所(北上市)

集中豪雨により熊本県を中心に九州や中部地方などで甚大な被害が発生した。この数年、全国各地で数10年に一度と言われる大雨特別警報を毎年耳にするようになった。この規模の大雨被害が毎年全国のどこかで必ず起きるのかと思うと、少し心が疲れる。自分も地球温暖化に加担しているところはないか。普段の生活を考える。
自宅から職場まではいつも車で移動。コロナ禍の前は少しでも歩くために意識的に電車も利用したが、今はほとんど車を使う。今日はradikoで「ナインティナインのオールナイトニッポン」を聴く。片道45分の現実逃避。残りは帰りに聴こう。
職場に入り、ホームページにて令和2年7月豪雨支援関連の情報発信。新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、被災地からの要請があるまで現地に行かないように全国社会福祉協議会からアナウンスされている。これも平時ではない。
事務所のスタッフたちとSDGs(持続的な開発目標)の話をしている。自組織としてSDGsをどのように示してしていくか検討しているところだ。「13 気候変動に具体的な対策を」に目が行く。地球温暖化。熊本ともつながる。
今日はいつもより少し早く帰宅。テレビでは引き続き集中豪雨のニュースが流れている。

7月7日(火)

天気|くもり

場所|自宅(岩手県紫波町)⇔事務所(北上市)

起きると、福岡・佐賀・長崎県の大雨特別警報がまだ出ている。被害が大きくならないことを祈るばかり。
家族そろって朝ごはん。避難先は川を渡る小学校ではなく中学校にしようと確認する。大雨の場合、車は使えるのか。それとも歩いて行った方が良いのか。その時に慌てないようにしないと。
朝のニュースには、岩手県盛岡市でビアガーデン開始、コロナ禍の影響で就労支援事業所3割が工賃減少、福岡県の大雨特別警報が4年連続で発生しているなど。これまでの暮らしと新しい生活環境が重なる。どこまで適応できるだろうか。
事務所に行き、オンラインで福祉分野のケースマネジメントのレクチャーを受ける。沿岸部の課題解決にもこの手法が生かすことができるかもしれない。ここで学んだ内容を、追って沿岸部の中間支援NPOの皆さんと共有することになっている。
令和2年7月豪雨の対応について、岩手県内の災害支援のネットワークで協議された議事録が流れてくる。東北の地からNPOができること、そしてこれからできそうなことが交わされている。コロナ禍でこちらから現地入りすることは難しいが、必要とされる時に動ける状態でありたい。
家の周りは、ここ数年で田んぼが宅地に変わっている。夏、当たり前に聞こえたカエルの鳴き声も小さくなってきた。田舎で考えさせられる「自然」と「開発」の均衡。地球温暖化の原因はすぐ近くにあるのかもしれない。

7月8日(水)

天気|くもり

場所|自宅(岩手県紫波町)⇔盛岡市

夜中に目が覚める。なかなか寝付けずテレビをつける。画面には引き続き大雨情報。1時間ほど見た後に布団に入る。目が覚めると朝だった。少し眠れたようだ。
テレビをつけると岐阜と長野県に大雨特別警報が発令されている。東日本大震災後から釜石市のNPO法人@リアスNPOサポートセンターさんやアーツカウンシル東京さん、そしてヒビノスペシャルさんなどと行っている、海に行灯を浮かべる「とうほくのこよみのよぶね」というプロジェクトのルーツは岐阜県長良川で、毎年冬至に行われている「こよみのよぶね」から。2年前に実際に拝見させていただいたが、その時もこの時期に豪雨災害があり、被害の爪痕が残っていた。今回は大丈夫だろうか。心配になる。
昼前、午後からの会議の前に非接触型体温計を探す。町内のホームセンター、ドラックストア、ベビー用品店を探すがどこも売り切れ。あれほど無かったマスクや消毒液は在庫あり。体温計も一時的なものか。
午後の会議では、災害救助法をはじめとする大規模自然災害時の各種法律を考える。避難所はどうしていつも公共施設のホールや会議室なのか。その環境が長年変わらないのはどうしてなのか。その源流は、諸々の法律にあるようだ。東日本大震災の時も避難しない方が多数いらっしゃったと聞く。避難先の環境が良ければ、積極的に避難する方も少し増えるかもしれない。

7月9日(木)

天気|晴れ

場所|自宅(岩手県紫波町)⇔事務所(北上市)

今日は事務所へ出勤。長野・岐阜県の大雨特別情報で見えてこなかったが、福岡県大牟田市の被害が大きいらしい。連日の大雨により、被災情報が上書きされてしまう。どこでどのようなことが起きているのか。俯瞰して見ていかないと、と改めて思う。
新しく入ったスタッフのメールアドレスの設定や名刺作成を行う。これまで担当していたスタッフが卒業したこともあり、不慣れながら手探りでやってみる。何とかできた。
お昼は、コンビニで地元の名店「柳家」の冷やしキムチ納豆ラーメン。あまりコンビニ飯を食べない方だが、今年は2度目。美味しくて、よくできていると心底感心する。
午後は、東日本大震災で被災した地域の課題解決を図る助成事業の外部評価シートの作成を中心に。これまでの資料を見ながらあれこれ思い出す。
帰りの空には久しぶりの夕焼け。豪雨災害のニュースが続く中、つかの間の穏やかさ。明日もこのまま晴れてほしい。

7月10日(金)

天気|雨

場所|自宅(岩手県紫波町)⇔盛岡市

今日は、東日本大震災で被災した地域の市民活動支援センターとのオンライン会議から。コロナ禍でオンラインによる会議も増え、自宅からの参加も多くなった。コップにホットコーヒー、水筒にアイスコーヒーを入れて臨む。リアル参加であれば堂々と席も外せるが、オンラインだとほかの人の発言を遮ってまで席を立つのも失礼だし、席を外した時に話を振られる可能性もある。リアル会議よりもオンライン会議の方が席を外すタイミングが難しい。
午後は盛岡市に移動し、岩手県沿岸部で起業を予定している事業者の審査会へ。コロナ禍でありながらも起業を決断した覚悟を感じる。
夕方は、県庁でNPO担当課と定例会議。NPO向けの研修や、行政を交えた協働推進フォーラムの内容や設えについて協議。7月末に行うNPO向けセミナーはリアルとオンラインの両方で行う予定だが、申し込みはオンラインが多い。セミナーの受け方も形が変わってきているような気がする。
夜のニュースには、プロ野球が観客を動員、政府が推進するGo Toキャンペーンの前倒し実施、全国で新たに新型コロナウィルスの感染者が429人の発表など。感染拡大防止と経済活動と余暇の過ごし方。均衡点はあるのか。。。

7月11日(土)

天気|雨

場所|自宅(岩手県紫波町)⇔盛岡市

午前中は歯医者へ。妹が歯科衛生士をやっているため、いつも妹に歯を見てもらう。親知らずの詰め物が取れていた。聞くと平成28(2016)年に詰めたものだそうだ。平成28年。震災から5年後。平成23(2011)年以降は、自然と「東日本大震災から〇年後」という思考になっている。しかし、それぞれの年に具体的に何をしていたのかがすぐに思い出せない。記憶が風化する前にまとめておかないと。
昼は地元の百貨店地下のじゃじゃ麺屋さんで。いつも行列ができるじゃじゃ麺屋さんも椅子を間引き、ソーシャルディスタンスを行っている。席が少ないため並ぶ時間はいつもより長いが、今は外でじゃじゃ麺を食べられるうれしさが勝る。並ぶ時間もこれがスタンダードになるのかもしれない。
夕飯を作る。今日は肉野菜炒めと、きゅうりとわかめの酢の物、そしてマカロニサラダ。きゅうりは家庭菜園から。畑は父が管理している。爺さんが生きていた時、父はノータッチだった。それが今は父がやっている。自分の番になったら管理ができるのだろうか。いや、やらないといけない。

7月12日(日)

天気|雨

場所|自宅(岩手県紫波町)⇔盛岡市

午前中は自分の車のオイル交換のため、盛岡市のカー用品店へ。この車は仕事でも使うのでメンテナンスは大切。月曜日も、車で1時間半ほど離れた釜石市に行く予定だ。今年予定している事業が少しずつ動き出し、これから沿岸部を回ることも多くなりそう。
午後は、母の車のオイル交換をするために午前と同じ場所へ。幸い父も母もまだ元気でいるが、ちょっと億劫なことが年々増えている。家族みんな持ちつ持たれつ、お互い補いながら日々暮らしていく。それで良いと思う。
東日本大震災から10年を迎えようとしている。10年だからといって何か劇的に変わるわけでもない。引き続きやれることをやっていく、そしてこの地域で生きていくだけ。それだけで一日はあっという間に過ぎていく。

バックナンバー

2020

6

  • 是恒さくら(美術家)
  • 萩原雄太(演出家)
  • 岩根 愛(写真家)
  • 中﨑 透(美術家)
  • 高橋瑞木(キュレーター)

2020

7

  • 大吹哲也(NPO法人いわて連携復興センター 常務理事/事務局長)
  • 村上 慧(アーティスト)
  • 村上しほり(都市史・建築史研究者)
  • きむらとしろうじんじん(美術家)

2020

8

  • 岡村幸宣(原爆の図丸木美術館 学芸員)
  • 山本唯人(社会学者/キュレイター)
  • 谷山恭子(アーティスト)
  • 鈴木 拓(boxes Inc. 代表)
  • 清水裕貴(写真家/小説家)

2020

9

  • 西村佳哲(リビングワールド 代表)
  • 遠藤一郎(カッパ師匠)
  • 榎本千賀子(写真家/フォトアーキビスト)
  • 山内宏泰(リアス・アーク美術館 副館長/学芸員)

2020

10

  • 木村敦子(クリエイティブディレクター/アートディレクター/編集者)
  • 矢部佳宏(西会津国際芸術村 ディレクター)
  • 木田修作(テレビユー福島 報道部 記者)
  • 北澤 潤(美術家)

2020

11

  • 清水チナツ(インディペンデント・キュレーター/PUMPQUAKES)
  • 三澤真也(ソコカシコ 店主)
  • 相澤久美(建築家/編集者/プロデューサー)
  • 竹久 侑(水戸芸術館 現代美術センター 主任学芸員)
  • 中村 茜(precog 代表取締役)

2020

12

  • 安川雄基(合同会社アトリエカフエ 代表社員)
  • 西大立目祥子(ライター)
  • 手塚夏子(ダンサー/振付家)
  • 森 司(アーツカウンシル東京 事業推進室 事業調整課長)

2021

1

  • モリテツヤ(汽水空港 店主)
  • 照屋勇賢(アーティスト)
  • 柳谷理紗(仙台市役所 防災環境都市・震災復興室)
  • 岩名泰岳(画家/<蜜ノ木>)

2021

2

  • 谷津智里(編集者/ライター)
  • 大小島真木(画家/アーティスト)
  • 田代光恵(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部 プログラムマネージャー)
  • 宮前良平(災害心理学者)

2021

3

  • 坂本顕子(熊本市現代美術館 学芸員)
  • 佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

特集10年目の
わたしたち