Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021

連載東北からの便り

2020年リレー日記

2020

12

12月7日-13日
安川雄基(合同会社アトリエカフエ 代表社員)

12月7日(月)

天気|晴れ→曇り 朝晩寒く、昼は暖かい

場所|茨木市→工房→羽曳野市→工房・自宅兼事務所(北加賀屋)

大阪府内を北から南へよく動いた一日になった。大阪はコロナ禍赤信号真っ只中。地元にある太陽の塔も赤く照らされている。不要不急の外出自粛が求められているが、第1波のときほど仕事は止まっていない。
午前は、食堂を開業する高校時代の友人から相談があるということで茨木市に向かう。着いてみると女性2人が埃まみれになりながら必死にDIYでお店作りをしており、十分良いお店になりそうだったので、安全面と設備関係のアドバイスと応援をして退散。いよいよ同世代が開業したり、活躍したりする人の話が増えてきた。協働してもらえるよう、頑張らないといけない。

午後からは工房で製作中の家具の塗装をしつつ、15時から羽曳野市で打ち合わせ。社会福祉法人が事業拡大のため新築での拠点拡張を検討しており、320坪の敷地の下見に行ってきた。今年序盤はコロナ禍で仕事が落ち着いた時期もあったが、次から次へと未知の領域、未知のスケールの仕事が舞い込んできて、2020年はまたひとつ区切りの年かもしれない。

僕は、2008年の大学4年秋、リーマンショックの影響で急に就職内定がなくなり、転がるように運良く建築の世界に踏み込んだ。何ができるかわからないまま2011年震災の年に独立。人に恵まれいろいろと誘っていただき、断ることなどひとつもせずにがむしゃらにやってきた。その駆け出しの頃の、大きな大きなポイントが2012年の岩手県・大槌町生活である。大学の頃にまちづくり・都市計画を専攻していたとはいえ、こんな大変な時に大阪から来た25歳半人前を温かく受け入れてくれた大槌町民及び関係者の方々には、いまだに感謝と申し訳なさがある。復興支援にいったつもりが、一番救われたのは自分かもしれない。強烈な人生経験になった。
息子の誕生とコロナ禍が続き、ここ2年大槌町に行けていないのが寂しい。みなさんお元気でしょうか?

リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍、大変な社会の中での挑戦を求められているのかもしれない。なぜだろうか。

12月8日(火)

天気|晴れ 外の様子をあまり覚えていない

場所|自宅兼事務所と工房(北加賀屋)

今日は久しぶりに丸一日ひとりで製作作業をする日。京都でのマンションリフォーム案件が大詰めで、家具を製作中。朝から工房でと思っていたが、電話が鳴り、メールが届き、やれ見積だ、工程表だと、午前は自転車で5分の工房に行くことすらできずに自宅兼事務所でデスクワーク。昨年あたりからこれが多い。当たり前だが、木工をしながらデスクワークはできない。なんとか複数案件の図面作成を同時に進めることはできても、丸ノコとPCは同時にできないということにちゃんと気づいたのはここ数年。アホみたいな話だが、自分で全部やりたがっていた頃にはあまり気づいていなかったような気がする。
法人としては妻と2人で、まもなく2歳になる息子と暮らす自宅を事務所にし、仕事とプライベートはごちゃごちゃで、そのメリットの方をみながらやってきた。しかし今年に入ってから特に、製作は大工さんに、設計も1人ではなくチームで、ということが増えてきて、賑やかになってきた。もはやスタッフを雇う必要があるのでは? ということは事務所を自宅と切り離して借りるのか? そうなると毎晩楽しみにしている息子とのお風呂はどうなるのか? みたいなことを今年は毎日毎日考えていて、あっという間に体制は変わらず12月になった。年々状況は変われど、独立して10年目、ずっとこんな感じで流されるようにやってきた気がする。
午後からは電話対応をしつつ、工房で製作を進めた。実質作業時間数時間程度か。でも良い家具ができそう。

12月9日(水)

天気|晴れ 最近考え事が多いせいか天候の記憶が薄い

場所|京都芸術大学

2018年から非常勤講師を務める、京都芸術大学2年生の設計課題合評の日。2から4講時。発表の間にお昼休憩を挟むと、どうしても発表済みの人とこれからの人の緊張感の差が顕著に出てしまうので、早めの昼食をとって12時過ぎから17時頃までぶっ通しの合評。学生34人、1人の持ち時間が短くいつも申し訳なく思うが、少しでも何かに気づき、モチベーションを上げてもらえたらという思いで必死に頭を回転させ続けて5時間弱。なかなかに脳が疲れている。1年生から続けて担当している彼ら彼女らの成長とか、それぞれの興味・得意技の違いとか、見ているだけでも楽しい。教えるのが上手いかどうかはわからないが、子供の頃から憧れていた先生業はやはり向いていると思う。
大学内は次亜塩素酸のミストが至るところで吹かれており、ここ最近のコロナ第3波の中なんとか対面授業が続けられている。今年度は始業が遅れ、6月から9月まではオンライン授業。提出物の管理とか出席率の高さとかチャットによる積極的な質問とか、オンラインの良さも感じたが、やはり対面授業が始まってみると教える側も絶対的に楽しい、やる気がでる。通勤に2時間かかるのだが、それでもみんなの顔を見ながら講義ができるのは嬉しいし、やりがいがある。
早く落ち着いて、マスクなしでしっかり表情を読み取りながら、学生ひとりひとりみんなにとって少しでもためになる話をしたい。とか考えていると妻に働きすぎる癖について指摘され、いや、逆に先生業向いていないか? とちょっと思った。ずっと続けたい。

12月10日(木)

天気|晴れ 

場所|京都のマンション現場

終盤に差し掛かっている京都のマンションリフォーム現場に家具の納品1回目。コロナ禍で当初のスケジュールが随分ずれ込んだが、9月に着工してゆっくり進めていた工事がようやく年内に完了。家具の製作がいくつか残っている。
今回は設計・工務店・大工のそれぞれ個人で活動する計4人でプロジェクトチームを作り、設計から施工まで一括してみんなで行うことを試みている。安川は監督? 窓口? 設計と施工とクライアントの間の人+家具の製作を担当している。良さも難しさも感じながら、ようやく終盤まできた。もう一踏ん張り。

その頃急遽、母親と妹が大阪の自宅に遊びにきて、妻が対応。夜に合流して、マンション現場のクライアントが現在大阪で営む飲食店にお邪魔した。自宅もお店も京都に引っ越され、どちらもお手伝いさせてもらっている。バリバリ工事進行中に、急遽家族と母と妹と妹の彼氏を連れてワラワラとお店にお邪魔できるような関係性ができていることに喜びを感じつつ、人の少ない大阪中心部で束の間の楽しい時間を過ごした。久しぶりだこういうの。無意識にかなり自粛しているのだと思う。ホッとした。

12月11日(金)

天気|晴れ少し曇り 

場所|北加賀屋

今日はじーっくりパソコンの前に座れた。溜まった請求書作成など会計関係、京都マンションの家具製作の準備、京都店舗工事の各業者とのやりとり、なかなか進められず溜まっていたタスクを減らすことができた。
最近はこういうゆっくりした日をなかなか作れなくなって、アタフタした毎日を送っている。仕事があるのはありがたいが、今年序盤のコロナ第1波の中、毎日自宅兼事務所でリモートで仕事を進めながら、家族の顔が見える時間が多いことの良さを覚えてしまったので、もう少し上手くコントロールできないものかと反省しつつ、明日からできるだけスムーズに事が進むよう、少し焦りながらデスクに就く。

夜は、美味しいとの噂を聞いて秋田から取り寄せたきりたんぽ鍋を家族でゆっくりいただいた。岩手・大槌町も本当にびっくりするほどごはんが美味しかった。何を食べてもおいしいのだ。復興支援に来た人が、地元の人のおもてなしで太って帰るというような場面を何度も目にして、本当に温かい場所だなと感じていたことをまた思い出した。

12月12日(土)

天気|晴れ少し曇り 

場所|中央区→堺→北加賀屋

福祉関係の仕事が多い。一級建築士事務所と協働して進めている茨木市での福祉施設新築プロジェクトの打ち合わせ。基本構想を進める。地域の方や入居予定の方とワークショップをしながら空間をデザインしていくことに期待されて抜擢されたが、コロナ禍の影響でワークショップを実施できず。会わなくてもできるワークショップ的なもの、など考えてみたがなかなか難しい。対象は高齢の方が多いためオンラインも困難で、シートを配布して回収するか? とかいろいろアイデア出しをしてみたが、この世情で新参者が急に自宅を回って紙を配るのもどうかと思うし、それはワークショップではなくアンケートではないか。現状、粛々とプランを練りつつ、1月には基本構想として資料をまとめる予定。
スパンが長い仕事が増えてきた。話をもらってから設計含めて2ヶ月で食堂オープン! のような仕事が懐かしい。今思うと、そういう仕事で本領を発揮してきたのかもしれない。いろんなことに挑戦させてもらえるこの環境は本当にありがたい。

夕方は堺市にある福祉施設に、10月に製作して納品したアトリエの什器のメンテナンスに。使っているといろいろ改善したい点が出てくるもので、自分で作っているとのちのち相談に乗ったり、自主的にアップデートできるのが良い。クライアントとは長い付き合いになることが多い。そういうスタンスも、福祉業界と相性が良い理由のひとつかもしれない。

12月13日(日)

天気|晴れ時々曇り 京都は少し雨が降った

場所|京都のマンション現場

終盤を迎えているマンション改修、クライアントとの最終現場打ち合わせ。もろもろ細かいところも決まり、あとは製作のみ。あと2週間ほどで竣工。年末まではバタバタしそうだ。
ここのクライアントが営むお店のほうも、マンションから自転車で行ける距離のところで今週着工。マンション打ち合わせに続いて、店舗現場打ち合わせと近隣への工事挨拶を行い、いよいよお店を始める感じがでてきた。
今の大阪のお店の内装はほとんどを店主自身で造作されており、今回も弊社チームで請けているのは解体工事と設備工事とほんの一部造作工事のみ。自分の場所は自分で作るスタンスは大好きなので、あとはめちゃめちゃ応援する。

北加賀屋まで車で1時間半ほど。日曜日を丸一日打ち合わせで終え、少し疲れながらの帰宅。明日は息子の2歳の誕生日なので、代休とまではいかなくともゆっくりしたい。
コロナ禍でいろんな人が大変な思いをして、我々も影響は受けているが、自宅で家族と過ごす時間が増え、心と時間にゆとりを欲するようになったのは個人的にすごく良かったと思っている。これを機に、年齢を重ねても長く元気に無理なく続けられる体制を作っていきたい。

バックナンバー

2020

6

  • 是恒さくら(美術家)
  • 萩原雄太(演出家)
  • 岩根 愛(写真家)
  • 中﨑 透(美術家)
  • 高橋瑞木(キュレーター)

2020

7

  • 大吹哲也(NPO法人いわて連携復興センター 常務理事/事務局長)
  • 村上 慧(アーティスト)
  • 村上しほり(都市史・建築史研究者)
  • きむらとしろうじんじん(美術家)

2020

8

  • 岡村幸宣(原爆の図丸木美術館 学芸員)
  • 山本唯人(社会学者/キュレイター)
  • 谷山恭子(アーティスト)
  • 鈴木 拓(boxes Inc. 代表)
  • 清水裕貴(写真家/小説家)

2020

9

  • 西村佳哲(リビングワールド 代表)
  • 遠藤一郎(カッパ師匠)
  • 榎本千賀子(写真家/フォトアーキビスト)
  • 山内宏泰(リアス・アーク美術館 副館長/学芸員)

2020

10

  • 木村敦子(クリエイティブディレクター/アートディレクター/編集者)
  • 矢部佳宏(西会津国際芸術村 ディレクター)
  • 木田修作(テレビユー福島 報道部 記者)
  • 北澤 潤(美術家)

2020

11

  • 清水チナツ(インディペンデント・キュレーター/PUMPQUAKES)
  • 三澤真也(ソコカシコ 店主)
  • 相澤久美(建築家/編集者/プロデューサー)
  • 竹久 侑(水戸芸術館 現代美術センター 主任学芸員)
  • 中村 茜(precog 代表取締役)

2020

12

  • 安川雄基(合同会社アトリエカフエ 代表社員)
  • 西大立目祥子(ライター)
  • 手塚夏子(ダンサー/振付家)
  • 森 司(アーツカウンシル東京 事業推進室 事業調整課長)

2021

1

  • モリテツヤ(汽水空港 店主)
  • 照屋勇賢(アーティスト)
  • 柳谷理紗(仙台市役所 防災環境都市・震災復興室)
  • 岩名泰岳(画家/<蜜ノ木>)

2021

2

  • 谷津智里(編集者/ライター)
  • 大小島真木(画家/アーティスト)
  • 田代光恵(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部 プログラムマネージャー)
  • 宮前良平(災害心理学者)

2021

3

  • 坂本顕子(熊本市現代美術館 学芸員)
  • 佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

特集10年目の
わたしたち