Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021

特集10年目のわたしたち

10年目の手記

嬉しい発見

しずく

震災によって夫の価値観が大きく揺さぶられた。県外に移住し転職したいと言うようになった。結婚して18年が経っており、夫の考え方や気持ちが頭では理解できた。しかし心が抵抗を続け、なかなかOKの返事をすることができなかった。約1年かかった末に、共に移住することを決心した。

移住先で私も仕事をすることができ、職場や地域に馴染もうと必死だった。ある日、気分転換に一人で遠出のドライブに出掛けた。初めての場所だったが買い物など楽しく過ごし、来たときと同じように高速で帰ろうとしたそのとき、過呼吸を起こしてしまった。初めての経験で自分でもビックリしてしまい、今日は帰れないのではないかと思ったほどだった。何とか自宅にたどり着き、翌日からも車で仕事に行くことができたので安心した。しかし、この後しばらくは怖くて高速に乗ることができなくなってしまった(現在は大丈夫)。

この経験から、自分でも気づかないうちにストレスがたまり、日々気を張って生活していたのではないかと思うようになった。そして、見ず知らずの土地で、文化も風習も気候も景色も、そして食文化も異なる生活に自分はなかなか馴染めていないことにも気がついた。「地元に帰りたい」という思いがときおり頭をよぎる。生まれてからずっと見てきた山がここにはない。冬の寒さの厳しさ、鮭がのぼる川、白鳥がたたずむ池、ここにはない。気がつくと無意識に故郷の山を探している自分がいた。帰りたい。

そんなある日、ときどき足を運んでいた美術館で、同郷の彫刻家の作品展が催された。美しさと迫力のある作品に胸が一杯になり、同時に、この地までよく来てくれましたねと感謝の気持ちで一杯になった。その後も、同郷の作家の絵を鑑賞する機会があり、そのたびに絵をとおして故郷に想いを馳せることができた。自分は美術とは全く無縁の人生を送ってきたと思っていた。ところが、大袈裟に言えば異郷の地で、故郷の作家と出会い、そこで自分が励まされた気持ちになっている。小さい頃に連れて行ってもらった美術館で、大きな大きな郷土芸能の絵を観た記憶まで、ありありと蘇ってきた。気づかないうちに自分の中には郷土の作家さんたちの息遣いが宿っていたのだと、しみじみ思った。そして、こんなにも美術に心を救われるとは全く思っていなかった。嬉しい発見だった。

自己紹介や手記の背景

手記を書くことで、気持ちが整理されました。タイトルをどうしようか悩んでいたのですが、書き進めるうちに気持ちが明るくなり、最後の言葉をそのままタイトルにしました。このような機会を作って頂きありがとうございました!

嬉しい発見

しずく

自己紹介や手記の背景

手記を書くことで、気持ちが整理されました。タイトルをどうしようか悩んでいたのですが、書き進めるうちに気持ちが明るくなり、最後の言葉をそのままタイトルにしました。このような機会を作って頂きありがとうございました!

連載東北から
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