Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021

連載東北からの便り

2020年リレー日記

2020

7

7月20日-26日
村上しほり(都市史・建築史研究者)

7月20日(月)

天気|晴れ

場所|自宅(兵庫県神戸市東灘区)から芦屋市山芦屋町へ

実家の猫が死んだ。コロナ禍の収束を待たずに、わずか2歳で逝ってしまった。先代(15歳没)、先々代(18歳没)のようには長生きできなかった。家族に迎えた子猫の頃から元気いっぱいでよく遊び育っていったが、突然食べられない状態になり、通院の日々が続くもひどく痩せていき、深夜に発作を起こして旅立った。活発さと身体の丈夫さは必ずしも直結しないと思い知らされた。
生きている間にもっと会いたかった。近くまで行っても家族へのコロナの影響を考えて、家には上がれずに数ヶ月経ってしまった。まさかこんなに早くお別れが来るなんて。元気に見えるのに健康に年をとれないなんて。原因がはっきりとしないままの若いうちの急逝は、こんなにも覚悟も整理もつかないものか。あとに残されて、これからの関わりをいつお別れしても悔いのないよう大切にするぐらいしかできないけれど、代わりがないのはわかっているつもり。どうか安らかに。そして、いつかまた。

7月21日(火)

天気|晴れ

場所|自宅(兵庫県神戸市東灘区)

昨日大泣きして腫らした目が痛い。締めきり間近の校正に取り掛かるも目の調子が悪いと捗らない。少し歩いて気分を変えていこうと郵便局へ行く。外は暑すぎる。エアコンが消せない。コロナ感染者の数値を見て、梅雨は明けていないのだと聞いて、どことなく憂鬱な気持ちが戻らない。いま、ひたすらにバテている。

7月22日(水)

天気|晴れのち曇り

場所|神戸市文書館(兵庫県神戸市中央区)

この1年弱、「神戸市公文書アドバイザー」なる謎の肩書で働いている。先週の打ち合わせを踏まえて、デジタルアーカイブの構築に向けて条件整理を行う。図らずもコロナの影響で所蔵資料の非対面利用の必要性が相対的に上がったことで、数年後かと想定していたプロジェクトを先行して動かせそうな状況になった。まだ何も決まっていないが、これが一過的な取り組みに終わらぬよう、今後も更新しながら用いられるよいもの・よいしくみを設えなければならない。とはいえ、資料管理の現場と方針を決める部署がイコールでないため、きっと一気には進まない。私にできることは、十分な多方面へのリサーチと提案、そして橋渡しだろうと思う。積極的に仕掛けていきたい。
外に出て仕事をすると気分転換になる。少し切り替えられた気持ちでいたが、帰宅すると頼まれた用事を一つ忘れたことに気づく。指摘されるまで思い出さなかったことからして、まだまだ週初のショックを引きずっているようだ。

7月23日(木・祝)

天気|曇り時々雨

場所|自宅(兵庫県神戸市東灘区)

世間は4連休の初日らしい。Go Toトラベルキャンペーンは昨日始まったというが、結局、このトラベルキャンペーンが何なのか、私にはよくわからないままだ。そもそもこの状況で旅行をしようという人びとはキャンペーンなどなくても行くのでは、と他人事として思う。いまどれぐらい移動するのか、外食するのか、人と接触するのか、といった判断には個人差が大きすぎて、誰かの指図に従うのではなく自分で考えるのが妥当だろう。
私は、2日後に控えた転居に向けて書斎の箱詰めに励んでいた。追加した段ボール30箱も部屋もあっという間に埋まっていく。時間が経って必要なくなった書類は処分するようにしているつもりだったが、普段手にとらないけれど思い入れのある嵩高いものが、意外と身の回りにあったことを知る。引っ越しのリミットは決まっているので、もう詰めることに励むほかない。作業に集中して、何も考えずに一日が終わる。
世間ではコロナ感染者の増加傾向が報じられている。今後どうなっていくのだろう。

7月24日(金・祝)

天気|雨

場所|自宅(兵庫県神戸市東灘区)

今日もとにかく自宅の梱包作業を続けた。私の担当は台所。暑い時期の引越しは初めてだ。冷蔵庫を限りなく空に近い状態にしなければいけないのは、長く続いた自粛生活の影響で食材を揃える習慣になっていたこともあって、かなりしんどかった。台所の棚卸しをすると、物が多いという現状だけでなく、日頃から心がけているのに十分には管理できていないという残念な事実にも気づき、なんだか疲れてしまう。
外の様子がわからなくなるほどに作業に集中して、一日があっという間に過ぎて、何とか準備完了。今回の引っ越しは手分けして話しながら作業ができたことで、作業量は変わらない(むしろ一人暮らしよりは増えている)が、思いのほか気持ちが楽であった。誰かと話すことや、何気ないコミュニケーションをとることによる救いは大きい。

7月25日(土)

天気|雨

場所|自宅(兵庫県神戸市東灘区)

梅雨が明けず、朝から雨が降ったり止んだりする中での引っ越し開始。まごころパンダくんの仲間たちが手際よく捌いてくれて、2LDKの部屋からみるみるうちに荷物がなくなった。自分には持ち上げるのもやっとの大型家具や家電の重さにもまったく動じない、プロのお仕事を見た。
荷造りにも性格が出る。荷物の多さも全く違う。終盤に私の荷物が運ばれていたとき、本ばっかりですね、と心の声を聞いた気がした。実際、何年も前から電子管理化を進めていても、なかなか書籍は捨てられない。本棚に収まっているのを見ているとそれほど多くない気がしていたけれど、箱に詰めるとそれなりの数量になった。
一日中立ったり座ったり、運ばれた荷物を開梱したりしていると、次第に効率よく身体を動かすことに集中して、頭が空っぽになっていく。脹脛(ふくらはぎ)や前腕に疲れが溜まる。それを通り越して、作業が終了した20時頃には、足底がひどく痛んで立っていられなかった。限界に気づかず最後に運んだPC入りの上を開けた箱を盛大に転がし、精神的なダメージを負うが、デスクトップは意外にも無事。思っているよりも頑丈なつくりで助かった。

7月26日(日)

天気|雨のち曇り

場所|自宅(兵庫県芦屋市翠ヶ丘町)

昨夜は、ここ数年で最も身体を痛めた状態で眠った。ここ最近の運動不足がたたっているし、翌日にも疲労が残っているだろうと想像したが、目覚めるとそれほど悪くない。回復している。静かで涼しく快眠できる環境を手に入れただけでも、もう引っ越した甲斐があるかもしれない。移った先は、周囲に迷惑をかけないように配慮しあっていることがすぐにわかるような大きな集合住宅で安心だ。
落ちついたニュータウンで育ったからか、周囲の音やにおいに敏感であることを自覚したのは、つい最近だった。暮らしてきた環境によって形成された感覚は、自助努力ではどうにも調整できないこともある。私の場合、たとえ室内が満足のいく部屋でも、便利な立地でも、窓を開けて電車の音が響くと心地よく感じられない。周囲の煙草の煙やにおいも気持ちのうえではまったく気にしていなかったけれど、ある時、急に肌や目鼻の不調として現れて、身体が耐えられなくなった。自分でも意味がわからないけれど、新幹線のにおいや振動にもめっぽう弱い。それらは体調にも左右されるし、絶対的な診断があるわけではなく気づき難いが、大人になって親しい人たちと話すうちに、他者との差異として知っていったように思う。
今回の急な転居は、コロナ禍の在宅勤務による部屋数不足に起因しているが、家にいることが増えるとどうしても環境の細かなことに気づいてしまう。過敏にならず、気づきや感覚を上手に調整しながら、新しい場所での暮らしを楽しんでいきたい。

バックナンバー

2020

6

  • 是恒さくら(美術家)
  • 萩原雄太(演出家)
  • 岩根 愛(写真家)
  • 中﨑 透(美術家)
  • 高橋瑞木(キュレーター)

2020

7

  • 大吹哲也(NPO法人いわて連携復興センター 常務理事/事務局長)
  • 村上 慧(アーティスト)
  • 村上しほり(都市史・建築史研究者)
  • きむらとしろうじんじん(美術家)

2020

8

  • 岡村幸宣(原爆の図丸木美術館 学芸員)
  • 山本唯人(社会学者/キュレイター)
  • 谷山恭子(アーティスト)
  • 鈴木 拓(boxes Inc. 代表)
  • 清水裕貴(写真家/小説家)

2020

9

  • 西村佳哲(リビングワールド 代表)
  • 遠藤一郎(カッパ師匠)
  • 榎本千賀子(写真家/フォトアーキビスト)
  • 山内宏泰(リアス・アーク美術館 副館長/学芸員)

2020

10

  • 木村敦子(クリエイティブディレクター/アートディレクター/編集者)
  • 矢部佳宏(西会津国際芸術村 ディレクター)
  • 木田修作(テレビユー福島 報道部 記者)
  • 北澤 潤(美術家)

2020

11

  • 清水チナツ(インディペンデント・キュレーター/PUMPQUAKES)
  • 三澤真也(ソコカシコ 店主)
  • 相澤久美(建築家/編集者/プロデューサー)
  • 竹久 侑(水戸芸術館 現代美術センター 主任学芸員)
  • 中村 茜(precog 代表取締役)

2020

12

  • 安川雄基(合同会社アトリエカフエ 代表社員)
  • 西大立目祥子(ライター)
  • 手塚夏子(ダンサー/振付家)
  • 森 司(アーツカウンシル東京 事業推進室 事業調整課長)

2021

1

  • モリテツヤ(汽水空港 店主)
  • 照屋勇賢(アーティスト)
  • 柳谷理紗(仙台市役所 防災環境都市・震災復興室)
  • 岩名泰岳(画家/<蜜ノ木>)

2021

2

  • 谷津智里(編集者/ライター)
  • 大小島真木(画家/アーティスト)
  • 田代光恵(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部 プログラムマネージャー)
  • 宮前良平(災害心理学者)

2021

3

  • 坂本顕子(熊本市現代美術館 学芸員)
  • 佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

特集10年目の
わたしたち