Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021

連載東北からの便り

2020年リレー日記

2020

11

11月30日-12月6日
中村 茜(株式会社precog 代表取締役)

11月30日(月)

天気|晴れ

場所|自宅(東京都)

2021年2月公開予定の「Theater for All(TfA)」 というオンライン型の劇場(配信プラットフォーム)の立ち上げ準備中。今日はラーニングプログラムの定例で話したことについて。
配信は、いつでも、どこでも作品に向き合えるので、気軽に、2度3度深掘りしながら見る体験ができるのが魅力の一つ(うちの娘は、好きな動画は何度も何度も見て「好き」を増幅させている)。舞台作品でも何度も配信版を見られることで、どれだけ豊かな視聴体験を生み出せるかに挑戦したい。

かつて、演劇をグラフィックレコーディング(グラレコ)するワークショップを開催した際に、観賞者の脳味噌の中(思考の経過、観賞者自身の興奮と疲れ、シーンの盛り上がりとストーリー展開など)が多様な形で可視化されることで、自分が気づいてなかったことに他の人のグラレコから気づけたりして、感想シェアの対話が非常に盛り上がった実体験がある。このように互いの考えを知りあい、違う視点に出会えることで自分の視野ももっと広がる。TfAラーニングでは、その鑑賞体験の先に一歩を踏み出すアクションへ繋げられるような場を生み出したい。

ちなみに、演劇グラレコについてのレポートはこちら

今日のラーニング定例では、アーティストや学者などが登場して、作品を感じる視点のウォーミングアップとなる解説動画を用意していて、そのタイトルについて議論。
「Question(問い)という言葉には、Quest(冒険する)という言葉が潜んでいるよね、この自ら冒険する感じは、この解説動画のイメージに近いんじゃないか!」というワークショップデザイナーの臼井隆志さんの発言で、グッとタイトル命名の方向性が見えてきた。

12月1日(火)

天気|晴れ

場所|自宅(東京都)

CINRAさんからリモートワーク宣言のメールが届く。プリコグでもこうした宣言をした方が良いのだろうか、と考える。プリコグは、4月1日から完全リモートワーク。労働規約や勤怠ルール、支給機材や手当などを見直して、リモートワーク体制を整えた今年前半。いまでは奈良、名古屋、北海道、ベルリンなどの在住者もプリコグに参加してくれており、頼もしいチームができて嬉しい。わたしだけでなく、ほかのスタッフも育児真っ最中のスタッフが数人おり、リモートワークは育児者に優しいことを実感。さらには、都心暮らしを手放し実家に戻ったスタッフや大学生も、リモートのほうが作業しやすく、作業スペースも自分流にアレンジできて良いなどの意見も。

一方で、コロナ禍での急激な社会変化も相まって、リモートワークに慣れないスタッフも出ている。弊社ではGoogle Meet、Zoom、LINE WORKS、Slack、メールが主なコミュニケーションツールだが、それらをジャグリングする脳味噌は、リアルコミュニケーションとは別物なので、オンライン上で発信したり意見交換したり、伝えたい情報を可視化できない人が孤立してしまう。
また、新人教育や、社内外の信頼関係の構築、雑談で生まれる笑いとか共感が生まれにくいのも事実で、週1などで実際にオフィスに集まるチームも出てきた。チームの顔ぶれ、担当するプロジェクトの性質によっても様々なので、試行錯誤をしながらより良い環境を追求していきたい。そして、変化に応じた社内コミュニケーションのフレキシブルなデザインが大事。

CINRAさんのメッセージで共感するのは、「社員と会社が、オフィスという場ではなくミッションでつながる関係になる」ということ。スタッフ一人一人が自分なりのミッションをもって仕事・活動していることは、その人を成長させるし、その人自身のミッションが、会社のミッションとも重なることで、会社も成長できるということだな、と思う。

12月2日(水)

天気|曇りのち雨

場所|自宅(東京都)

いつものように朝8時頃から自宅のデスクに向かい、オンライン会議が5本。18時に終業し、保育園にお迎え。

12月3日(木)

天気|曇り

場所|自宅(東京都)

「見る」「鑑賞する」「視聴する」「観劇する」という漢字の使い分けについて考える。芸術作品を「見る」とき、晴眼者も視覚的に見えているものだけで作品を捉えているわけではなくて、その場の空気感や音などもさることながら、作品が生まれた背景や社会状況や、アーティストのバックボーンとか、そこから受ける刺激や感情などを含めて感じとる行為が、この4つの言葉に含まれている。そんなことを改めて認識して、字面だけではない言葉の意味を広げていきたいと思った。

ところで以前、チェルフィッチュの人たちと話していたとき、日本だと「俳優」というと「演出家」の指示を聞く人というイメージが強く、アーティスティックな創造や表現をする人という認識は一般的にはないのではないか? という話題になった。一方で、ヨーロッパでは、「俳優」はアーティスティックな創造・表現をする人という認識がその言葉自体に含まれた形で一般的に浸透しているのではないか? という話をしたことを思い出す。

「Theater for All(TfA)」プロジェクトの立ち上げをしながら、「アクセシビリティー」「ダイバーシティ」「ユニバーサリティー」「バリアフリー」「インクルージョン」などというカタカナ言葉が持つそれぞれの意味や、社会的な認識のされ方についてもチームで考えてきた。これらの言葉は、使う文脈や相手によって、同じ言葉でも伝わり方にだいぶ差が出ると感じていて、言葉や伝わり方がその都度ブレる感じがある。TfAでは、どう言葉を使い分けていくか丁寧に意識して取り組むことを共有した。

ちなみに、TfAのマガジンをやってますので、覗いてみて下さい。

12月4日(金)

天気|晴れ

場所|自宅(東京都)

2018年からジョグジャカルタ、クアラルンプール、ロハスシティで開催してきたアジアを旅する交流事業「Jejak—旅Tabi Exchange:wandering contemporary performing arts in Asia Contemporary Performance」のオンラインイベント初日。双方向Q&A「帝国、その後?─ 東南アジアと沖縄で共有されるべきこと」に登壇。
今年の大きな悩みの一つは、コロナ禍における国際交流はどのように実践できるか? というもの。そのことを乗り越えるために、どんなに小さなものであれ国際事業を実施したい、という思いがあった。

今回、ジョグジャカルタ、シンガポール、マレーシア 、マニラ、台北、那覇、長野、東京などから登壇者と配信作品が集まり開催。リアルでは観劇からトークや交流プログラムまで1日の中で開催することも多いが、オンラインで、観客にも時差がある中では、観客を長時間同じ時間に拘束するのは難しい。
作品はYouTubeやPeatixなどのオンデマンドを通じて日本語か英語で観ることができ、どう感じたか? というリフレクションや交流は双方向ウェビナー(逐次通訳)という形で、時間やフォーマットを分けて開催した。
一番課題だと感じたのは、お客さんの動線。観劇であれば、チケット買う(ぴあやPeatixに行く)→カレンダーに入れる→劇場に行く→交流する、みたいなことが社会的にも慣例化されているが、オンデマンドだと自分の好きな時にチケットを購入し、鑑賞することになるため、「観る→交流する」という動線のデザインにまだまだ課題を感じる。

トークでは、キュレーターの野村政史さん司会で、1972年の沖縄復帰という歴史的事件を取り扱った沖縄の作品『9人の迷える沖縄人』を、シンガポール在住の劇作家、Alfianと引き合わせた。彼は『Tiger of Malaya』という、終戦間近に公開されたプロパガンダ邦画を題材にした演劇を発表している。この沖縄の在りようは、第二次世界大戦中に日本の支配を受けた国や地域が、戦後から現在まで向き合ってきた状況と共通性があるのではないかと考えたのである。
1963年にマレーシア連邦から独立したシンガポール。Alfianは、彼が描く作品の内容のためか、マレーシアへの入国許可が降りたことがないという。
シンガポールが「独立」する、沖縄が日本へ「返還」される。一体土地は誰のものなのか? という議論が印象的だった。Alfianが、『9人の迷える沖縄人」にたくさん共感するところがあった、と言っていて、狙いが当たった達成感があった。

アーカイブはこちらへ。

12月5日(土)

天気|雨のち曇り

場所|自宅(東京都)

引き続き「Jejak—旅Tabi Exchange」のオンラインイベント。双方向Q&A「Emancipatory Movements: A Regroup of Solidarities“解放のムーブメント:連帯を結びなおす”」に登壇した。

フィリピンは、1月30日に最初のコロナウイルスの症例が報告され、3月12日にロックダウンが終了。新型コロナウイルス感染症の大流行や政治的抑圧などの状況下で、フィリピンでの文化活動に携わっている団体と議論を行った。
フィリピン勢の、この機会に、不当に拘束されたり、行方不明になってしまったりしたアーティストが出ている社会状況について切実な訴えが続いた。そのことがあったのがつい一昨日などで、直近の生々しいニュースが次々に報告された。

12月6日(日)

天気|曇りのち晴れ

場所|自宅(東京都)

今日も「Jejak—旅Tabi Exchange」オンラインイベントにて、双方向Q&A「Performing Resilience“レジリエンスを上演する”」登壇。

シンガポール、台北、ジョグジャカルタ、那覇のアーティストから、コロナ禍の創作環境や思考の変化について議論。一番印象的だったのは、演劇を上演する際に、戯曲を政府当局に提出し上演許可を受けねばならないシンガポールにおいて、オンラインの表現空間は治外法権なので、オンライン演劇が、新たなおルタナティブスペースとして機能し始めている、という話。
また、新型コロナウイルス感染症の制御に成功している台北にいる、振付家ウェン・チーでさえ、3ヶ月後以降のスケジュールは決めておらず、クリエーションやお稽古でいろんな人と取り組む時間ができたから、今は作品の種を育てている、と話していたことも印象的だった。
皆さん、コロナ以前の生活に戻るという前提は持っておらず、「新しい未来」を探っているところも印象的だった。

特集10年目の
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