2020
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6月15日-21日
岩根 愛(写真家)
6月15日(月)
天気|曇りのち雨
場所|自宅(東京都渋谷区)
朝からプリントし続けて、展示作品をどれにするか考える。このところずっと、7月28日から東京都写真美術館で始まるグループ展『あしたのひかり 日本の新進作家 vol.17』の準備をしている。2018年に発表した「KIPUKA」の展示を、という依頼だったのだけれど、この3ヶ月が1年以上の長さに感じる今、今さらKIPUKAを展示している場合じゃないと、今春に撮った新作を展示させてもらうことになった。
全体の構成は決まったのだけど、会期1ヶ月半前を切った今もどのカットにするのかまだ決めきれていない。
雨が降ってきて、網戸に空いていた穴から入ってきた蚊に全身食われた。雨が上がった深夜、蚊取り線香を買いに行く。
6月16日(火)
天気|曇り
場所|自宅(東京都渋谷区)
昨夜のコンビニでは売ってなかったキンカンを買いに薬局へ。マウイ島ラハイナのお寺で寝ていた夜を思い出す。ハワイでもキンカンをよく使っていた。
ラハイナ浄土院でお世話になる時は、衝立で仕切ったホールの奥がベッドルームになる。ラハイナにはそんなに蚊はいないけど、昨日みたいに、夜、急に雨が降って来ると、湿って重くなった空気に押し込まれるように、あちこちの隙間から蚊が入ってきて、一気に刺されて起こされる。
いつもならボンダンス(盆踊り)を控えた今頃のお寺には毎日、準備の物資が届いたり、屋根や水回りを直したり、忙しいはずだった。そんなことを思い出して、ラハイナの原住職夫妻に電話する。オフィスの電話に原先生が、キッチンの電話に節子さんが同時に出て、3人でお話しする。
東京都写真美術館の展示のこと、映像作品に原先生の映像を使用する旨ご報告する。「おかげさまでコロナにもならずに元気にしております」と、お元気そうでよかった。ハワイ在住50年強、80代のご夫婦のボンダンスのない初めての夏、いつも忙しい夏に、少しゆっくりしていただけたら良いなと思う。
電話を切ったら原先生からラハイナのビーチの写真が届く。モロカイとラナイ島の間に太陽が沈む。iPadでサンセットの写真を撮るのが原先生の日課で、たまに気まぐれにメールで送ってくださる。まさしく西方浄土というラハイナの光に包まれて、眠くなる夕方を思い出す。
6月17日(水)
天気|晴れ
場所|自宅(東京都渋谷区)
『アサヒカメラ』最終号が届く。実質的にずっと誌面を作っていた外部スタッフの方たちの無念さを思う。創刊94年となる写真誌が、コロナのせいにして急死。日本では、人生の儀式は葬式が一番大事なのだと思っていた。死に際は生き残った人たちに記憶される。
福島県三春町の新野徳秋さんからカボチャの苗の写真が届く。3月のはじめ、カリフォルニアを訪問中、毎年巨大カボチャコンテストに参加している同級生のイアンから、カボチャの種をもらったのだった。福島のフレンズにあげてほしい、と。種一つ持って帰ったところで、育つのだろうか? と思いつつも、新野さんに持っていった。実家の畑を数年前に再開した妻の美希子さんの畑に植えてもらえないだろうか? と渡したら、美希子さんは勤め先の保育園の隣にある畑に植えてくれたという。写真の葉は大きく、既に巨大カボチャの風格がある。子供たちと巨大カボチャの成長を見守れるかな? イアンに写真を送ったらとても喜んでいた。
メキシコシティの友人とメッセンジャーで話す。メキシコはどの国に対しても国境は閉じていないという。しかし感染者は増え続けていて、外出制限が続いている。
遠くの友人のことをより想うようになった。各地の友人たちと話して、どのような状況になったら旅をすることができるのかを考え続けている。旅をすることは相手に受け入れられるということだ。そこに訪問する側ができることが何かあるのだろうか?
6月18日(木)
天気|曇り
場所|自宅(東京都渋谷区)
毎日A4サイズにプリントしては展示作品を絞ってきたけど、まだ決められない。撮影地1箇所につき1点ずつに絞り、表裏2面写真のパネルを吊るそうとしているので、表裏の組み合わせや吊り位置など、プリントを並べて平面で考えるだけではイメージがつかめない。
ふと、カメラ収納用、スーツケース大のスポンジがあったことを思い出し、スポンジにざくざくカッターで切れ込みを入れて、小さくプリントして裏表くっつけた写真をぶっさして、前から後ろから、歩いてどう見えるかを考える。
福島の高柴デコ屋敷、橋本広司民芸より連絡。広司さんは高柴に300年以上続く伝統、張子のデコ人形やお面作りとひょっとこ踊りの名手であり、私のミューズである。今春はデコ屋敷でもデコ祭り中止、毎年30万人が訪れる三春滝桜も閉鎖、デコ屋敷に4軒あるお店は全部閉まって、ひっそりとしていた。
デコ屋敷の丘の上に、天神夫婦桜という大きな2本の木が絡み合った桜がある。満開になるといつも、桜の一番近くに住む広司さんがライトアップして、その下で踊っていた。今年は外出自粛で誰も来なくても、変わらずライトアップして、一人で踊っていた。
私は広司さんのひょっとこ、おかめのお面と、プロジェクトFUKUSHIMA!の盆踊り手ぬぐいで作った、布マスクのセットを企画した。音楽家の大友良英さんに『厄除けマスクセット』と命名してもらい、橋本広司民芸初のネットショップを、広司さんの娘の明恵さんが立ち上げた。
5月中旬から販売を始め、今日、ネットショップにNADiffから問い合わせがあったとのこと! 水戸芸術館、東京都現代美術館、東京都写真美術館、渋谷PARCOのNADiffで販売されることに。この買い取り分を合わせてマスクセットも100個販売達成!! よかった。
6月19日(金)
天気|雨
場所|自宅(東京都渋谷区)
一日中、スポンジに刺した写真をいじってようやく展示カットを決める。東京都写真美術館で展示する新作『あたらしい川』は、作品集『A NEW RIVER』としてbookshop Mから出版していただくことになった。やっと決まった展示カットを主宰の町口覚さんに送る。
写真を担当した鳥井一平さんの著作、『国家と移民 外国人労働者と日本の未来』(集英社新書)が届く。実質的に移民社会が既に始まっている日本でも、未だ単純労働の従事者としか捉えない制度には多くの問題がある。コロナ禍で書き足されたのであろう序文には、ウイルスが国境をまたいだ人々の動きや経済活動を大きく制限している今こそ、移民政策について考える大きなチャンスとなるのではと鳥井さんは書いている。
6月20日(土)
天気|曇り
場所|東京都中央区
角田純さんの個展「Presence」を見に新橋のCurator’s Cubeへ。鉱物を使った造形作品、以前から作っていることは聞いていたのだけど、すごい数が並んでいる。
手のひらサイズから大きなものまで、カラフルな結晶や尖った石、一つ一つの作品を見つめると、その色や形によって、私の内側に様々な反応を起こす、そのリアクションに素直に向き合ってみようと努力してみる。オーラソーマの造形版のような……カウンセリングを受けているような、今までにない鑑賞体験だった。
自分に合う一つがあるはずと思い、買いたいと思って見直すと、それはそれで物欲と向き合うこととなり、さっきの体験が失われる。ということを繰り返したらぐったり。石にあたったのかな。磁力に疲れた。一緒に行った友人は、彼にぴったりと言えるものを買っていた。いつかオーダーメイドしたい。
6月21日(日)
天気|晴れ
場所|自宅(東京都渋谷区)
展示のテストプリント、作品集『A NEW RIVER』の印刷テスト用に入稿用写真データと、見本プリント5点分を終日制作。
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