2020年がまもなく終わろうとする12月27日(日)に、第2回目のオンライン報奏会が開催されました。今回は、この「報奏会」という造語の「(演)奏」の部分が際立つ内容を企画しました。すなわち、伴奏型支援バンド(BSB)による生演奏です。
伴奏型支援バンドは、福島県いわき市にある復興県営住宅・下神白団地の住民お一人おひとりの、かつて住んでいたまちにまつわる思い出の曲(メモリーソング)を聞くコミュニティラジオプロジェクト「ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ」から派生したバンドです。
2016年末に、プロジェクトのディレクターであるアサダワタルが初めて団地に訪れて以来、これまで7本のラジオ番組(各60分〜70本)を、住民限定のCDというかたちでリリースしてきました。住民さんの語りを聞き、ときに住民さんが自ら口ずさむ歌を聞き、その「声」を受け取るという体験は、福島から遠く離れた誰かのこころを動かすことになるだろうという確信を持つに至りました。それは、震災や復興支援という事実を伝えるジャーナリズムや、現場の実情を調査しながらこれからの社会のあり方を提言する社会学的なアプローチとも違う、「ここに〇〇さんという人がこうして存在している」ことを「感じる」ための表現活動です。
その表現を受け取った有志のバンドメンバーが6名(関東在住者と茨城在住現地派遣ピアニスト含む)集まりました。住民さんたちから受け取ったメモリーソングのバック演奏をする、まったく新しいジャンル(!?)のバンド形態、それが伴奏型支援バンド(BSB)です。
さて、第2回目のオンライン報奏会では、まず2019年7月に結成されたBSBの活動の軌跡を凝縮したドキュメント映像(撮影/編集:小森はるか)をお届けするところからスタートしました。映像では、都内スタジオにて、まずアサダからメンバーに向けて、住民さんの人となりや背景、そしてメモリーソングについて共有しながら、選曲をし、それらをカバーし、パートを振り分けて実際に演奏していきます。演奏を重ねつつ、再び意見交換し、住民さんにあった演奏のスピードを検討したり、演出についてアイデアを出したりという場面も。
次に現地訪問のシーンです。メンバーを2つに分けて団地を訪れ、実際に住民さんに会いました。これまでラジオのなかの登場人物であった住民の「〇〇さん」が立体的に立ち現れ、今後の演奏にその存在を吹き込み、重ね合わせて行く機会となったのではないかと感じています。
関東に戻ったBSBメンバーは、約5か月ほど都内スタジオでの練習を重ねて、2019年12月23日に、下神白団地のお向かいにあるいわき市営永崎団地の集会場をお借りし、「ラジオ下神白プレゼンツ クリスマス歌声喫茶 みなさんの思い出の曲を一緒に歌いましょう」を開催しました。全6曲のメモリーソング、ならびにギター担当の池崎浩士によるオリジナルソングや子ども向けの楽曲など合計8曲を演奏。ボーカルは、もちろん住民さんです。映像では、BSBの演奏と住民さんの歌声がしっかり重なり合う様子が記録されています。
「ラジオ下神白プレゼンツ クリスマス歌声喫茶 みなさんの思い出の曲を一緒に歌いましょう」の様子(2019年)
このドキュメント映像を配信しながら、改めてアサダはこう感じました。「まさに夢のような時間だった」と。数年間積み上げてきた住民さんとの関係性がぎゅっと凝縮され、バンド仲間たちとこうして住民さんお一人ひとりの歌と記憶を愛で合える場。ともに声を響かせ合う場。それはいまから考えると“三密”の極みであるわけですが、改めてコロナ禍で失ったものの大きさを実感せざるを得ません。
しかし、くよくよしててもはじまらない。わたしたちなりに前に進むためにこのオンライン報奏会だってやっているのだ! というわけで、お次がメインコーナーの紹介です。
いよいよBSBメンバーによるオンライン生演奏。しかも、下神白団地3号棟(主に大熊町出身の方が入居)の小泉いみ子さんとZoomをつなぎ、福島から彼女がボーカル、東京で僕らBSBがバック演奏をするという画期的な取り組みです。現地では、プロジェクトマネージャーの鈴木詩織をはじめとした一般社団法人Tecoチームががっちりサポート。まずは藤山一郎の「青い山脈」(作詞:西條八十 作曲:服部良一/1949)をBSBのインスト演奏でお届けしたのちに、いよいよいみ子さんの登場です。
いみ子さんは原町出身で、大熊町出身の農家のもとに嫁いだのち、さまざまなご苦労をされながら、これまでの人生を「歌に支えられてきた」といつもわたしたちに語ってくれます。下神白団地に入居する前は6か所の仮設住宅を渡り歩き、2015年の春に下神白団地の入居がスタートすると同時に移り住んでこられました。2017年にお連れ合いを亡くされ、一人でいまこの団地に住んでいるいみ子さんがもっとも大切にしているのが「歌うこと」。毎週水曜と金曜の午前に集会場で開催されるカラオケには必ず足を運び、住民の仲間たちに支えられながら生活を続けられています。そんな彼女の十八番は平和勝次とダークホース「宗右衛門町ブルース」(作詞:平和勝次 作曲:山路進一/1972)。今回は、遠く離れた土地をつないでこの曲を披露しました。
いわき(歌)と東京(バック演奏)がオンラインで重なる
みなさんには、ぜひともこの様子をアーカイブ映像でご覧いただきたいです。とにかくいみ子さんの歌がすごいのです。いみ子さんの歌の特徴は、ものすごく伸びやかな声で、独自のリズム感で歌い上げること。拍という狭い意味でのリズムからすればどんどんズレていってるように聞こえますが、最後にはなぜかちゃんと着地するという技量(センスといった方が正しいニュアンスかもしれません)にいつも感動させられます。
もちろん、それはアサダ自身が「いみ子さんのことを知っている」という背景があることは承知です。しかし、福島の復興住宅に小泉いみ子さんという方がこうして「存在」している事実を、知るのではなく「感じる」には、もうこれ以上にない歌なのではないかと思うのです。
コロナ禍という、人と人とが直接交わり、つながることが難しい状況になり、「そこにいる」ということを伝えることの意味がより増していると感じています。それは「ライブとは何か」という問いでもあります。オンラインでできるライブ表現について、きっと思いを悩ませているミュージシャンや舞台芸術関係者は多いと思いますが、そのあたりの問いに対する回答もこの機会に示したいと考えてきました。そこでひとつ大事にしたいのは、問題なくオンラインでやることよりも、「それでもつながろうとする意思のプロセスを如実に表現できるかどうか」だと思いました。それは、今回の小泉いみ子さんとBSBのあいだで、わずかながらも表現できたのではないかと思っています。
最後のコーナーは、BSBのミュージックビデオ上映。下神白団地2号棟(富岡町出身の方が多く入居)の横山けい子さんと、4号棟(浪江町出身の方が多く入居)の髙原タケ子さんのメモリーソングで、わたしたちのプロジェクトの代表曲となっている「青い山脈」。この曲をBSBの演奏をバックに7名の住民さんが歌い上げた(在宅収録!)ミュージックビデオ(小森はるか・福原悠介 撮影/編集)をお届けし、無事終了いたしました。
最後に。今回は目に見えないところで、とても機微に富んだテクニカルサポートを4名の方に行っていただきました。配信担当の齋藤彰英さん、音響担当の大城真さん、溝口紘美さん(Nancy)、団地での配信・音響担当の福原悠介さんにこの場を借りて厚くお礼を申し上げます。
2月23日(火・祝)に開催予定の最終回になる第3回目のオンライン報奏会は、あの日からまもなく10年を迎える2021年3月11日を目前開催します。ゲストに、震災後に福島の方々との交流を盛んに行ってきた作家/クリエイターのいとうせいこうさんをお招きし、「表現・想像力・支援」というテーマで語り合います。どうぞご期待ください!
(執筆:アサダワタル)