Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021

連載東北からの便り

2020年リレー日記

2020

11

11月16日-22日
相澤久美(建築家/編集者/プロデューサー)

11月16日(月)

天気|晴れ

場所|福島県南相馬市→富岡町

福島に来ている。「みちのく潮風トレイル(*)」の南端は相馬市の松川浦記念公園で終わっているのだけれど、福島の南端までやっぱり伸ばしたい。復興事業として、「南相馬〜いわき」が含まれないことに対する違和感がずっとあった。だから、今回歩きに来た。
昨日は、現在のみちのく潮風トレイルの南端、相馬市の松川浦環境公園から、南相馬市の原ノ町まで約33kmを歩いた。基本舗装路だから、足が疲れる。ゴールの原ノ町駅前のホテルは、前はつぎはぎだらけだったけど、ピカピカになっていた。一緒に歩いたのはハイカーの長谷川さん、高荒さん、レーガン。高荒さんは地元だから、いろんなことを教えてくれる。地元の人と歩くのは、いつも楽しい。
今日は、原ノ町から波江の駅まで32.4km。そのうち、2時間くらい会議のために離脱したので、私は24kmくらいしか歩けなかった。途中、予定していたルートとは異なるルートを現地で発見し、行ってみよう! と進んでみると、藪漕ぎ&迷子。余計な時間と距離と体力を使ってしまったけど、こういう予期せぬ突発的な出来事が好きだ。歩き旅の楽しいところ。でも、一緒に歩いていた仲間には呆れられたり怒られたり。ゴールの浪江駅に着いた時にはまた真っ暗で、そこから電車で富岡の駅に向かった。
浪江駅から富岡駅、この区間はまだ人が歩くことはできない部分を含む。だから、電車で移動する。GPSのログを取りながら、動物や人々の生活導線から自然に形作られた古い町や村を歩けば、地図上には生き物のようにくねくねと折れ曲がる軌跡が浮き上がる。ここだけ、まだ、真っ直ぐな常磐線の直線が地図上に引かれる。
歩いてよかった。歩かないとわからないことが、たくさんある。

*青森県八戸市から福島県相馬市まで、被災沿岸部4県28市町村をつなぐ長距離自然歩道=ナショナルロングトレイル。東日本大震災後に環境省が取り組んできたプロジェクトのひとつ。みちのく潮風トレイルは全長1,000kmを超える。自分の足で、一歩一歩、歩いて進み、東北沿岸の今を歩く速度で、地域の人との出会いを繰り返しながら、地域の歴史、文化、暮らし、生業等体感していく。マスメディアの報道からは伝わらなかったことが、歩く旅を通して伝わっていく、貴重なプロジェクトと思い、ここ数年はこの仕事に注力している。2015年から全線の運営計画を策定する仕事に関わり、現在はこのトレイルを統括するNPO法人を運営している。

11月17日(火)

天気|晴れ 

場所|福島県富岡町→いわき市→宮城県名取市

富岡駅で7時30分に待ち合わせをして、また南に向かって歩いた。今回の調査は今日が最終日。ここまで、相馬市、南相馬市、浪江町を歩き、双葉町と大熊町を電車で通り、富岡町の途中まで歩いていた。残るは、楢葉町、広野町、いわき市の3つ。今日はいわき市の北部にある久ノ浜まで。
小さな丘の上に古い集落があり、丘を下るとススキとセイタカアワダチソウの薄い茶色の大地が広がる。その繰り返し。高台にある神社に背後からお邪魔し、鳥居を潜って階段を降りようとすると、巨大な環境省の仮置き場が見えた。神社の主は、守るべき人々の暮らしを眺める代わりに、今は、白い巨大なテントの建物と、そこに出入りするダンプばかりを見る毎日であることが、なんだか申し訳なかった。
3日間よく歩いた。92kmくらい。歩いてよかった。歩かないと感じられないことがたくさんある。でも、私には、まだこのルートを1人で歩くのは辛過ぎる。けど、たくさんの人に歩いてもらいたいと思う。もう今日はくたくた。駅についたら、友人の富樫さんが迎えにきてくれて、スーパー銭湯に連れて行ってくれた。アカスリは生き返る。感謝。

11月18日(水)

天気|晴れ 

場所|宮城県名取市→青森県八戸市→岩手県久慈市

5時に起きて名取の社宅から名取市役所経由で八戸に向かう。名取市長がトレイル沿線の3市長村長に表敬訪問に行くので、その同行。途中、市長の車に乗り込み、事前レクとみちのく潮風トレイルの今後の取り組みについてあれこれ話す。名取市長は若く溌剌としていて、トレイルのことを真剣に考えてくれていて本当にありがたい。トレイルは、地域の人の協力なくしてはなんともならず、つまり、自治体の協力も不可欠。4県28市町村の良好な連携関係を保つことは、私たちに課せられた重要なミッションのひとつ。
八戸市長の表敬訪問の最中、市長の口からアメリカのパシフィック・クレスト・トレイルの話が出て驚いた。視察に連れて行ってもらったと話されていたが、私が関わるよりはるか前から、たくさんの人がこのトレイルには関わってくれているんだよなあ、と改めて実感する。
午後は蕪島から種差海岸まで8km程度の快適ハイキングで、前日まで舗装路を歩き続けた足に、八戸のトレイルルートは優しく、痛かった足首は歩いていたら直った。身体が丈夫でよかった。

11月19日(木)

天気|晴れ

場所|岩手県久慈市→普代村→宮城県名取市

引き続き表敬訪問と視察の1日。久慈市長と普代村長と会談。首長同士が「トレイル上での自治体の連携が重要である」ことを確認し合う場面に立ち会えるのは本当にありがたい。表敬訪問は1泊2日で強行軍だったけど、「来てよかった」と山田市長。ありがたいことです。自治体職員のみなさんありがとう。地域のみなさんもありがとう。
仙台に戻ると、仙台・松島圏のDMO(観光地域づくり推進法人)のみなさんが、三浦さんのセリ鍋の美味しい店で待っていてくれた。スタッフの板橋さんと板谷さんが先に店で話をしてくれていた。みちのく潮風トレイルの今後の活用に関して、どう連携できるかざっくばらんに相談。この道を活かしていくには、本当にたくさんの人の協力が必要なのだ。その後、板橋さんと打合せをして、もう1人友人に会い、今ホテル。アカスリ効果がまだ効いている。

11月20日(金)

天気|晴れ 

場所|宮城県名取市→気仙沼市

今日はセンター勤務と移動の日だった。天気の良い日が続く。
朝は、閖上の長沼さんのお宅に「みちのく潮風トレイル 名取センター」の園庭工事の件でお伺いした。センターが閖上にできるとわかった時、最初に相談に行った友人。閖上のことではいつも頼りにしている人。でも、ちょっと久しぶり。本当は、閖上で有名な赤貝の季節に、仕事じゃなくてきたいなあ、とこぼすと、「早く来い」と笑われる。
地域づくりとか言うけれど、よそ者が地域になにかしてあげよう、というやる気だけでは、うまくいかないことが多い。地域の方に助けてもらう、教えてもらう、という姿勢がものすごく大事で、自分たちだけでなんとかしようと頑張り過ぎるのは逆効果のことすらある。地元の人の方が当然あれこれ詳しく、ネットワークもあり、その地域に愛がある。「愛だよ、愛」、は友人の座右の銘。自分にとってもそうだ。
夕方、明日のイベントのためにハイカーの長谷川さんが東京から来て、気仙沼に車で移動し、明日からの気仙沼大島の親子ツアーの打ち合わせ。大阪王将でテイクアウトして、食べながらホテルの一室で打ち合わせしていたら、途中ウトウト寝てしまった・・・ので、今まだ元気に深夜2時。仕事が終わらないなあ。気仙沼で九州自然歩道のことを考え資料をつくる。日本の「歩く旅」が、もっともっと文化として浸透して欲しいと願う。

11月21日(土)

天気|晴れ

場所|宮城県気仙沼市→気仙沼大島

想定していないことは起こる。今日は朝から気仙沼大島でJTBと地域の方々と協働で企画してきた「気仙沼大島・地元の人と歩く親子ハイキングツアー」の初日。コロナ禍のため、朝一番で検温。会場準備していると、JTBの杉田さんが真顔で近づいてきて、「相澤さん、ちょっといいですか?」と。ツアー工程をつくり、細々した準備をし、当日先頭を歩く予定の担当者の熱が高い。何度測っても37℃を下がらない。全ての役回りを変更、相澤代打。今回は事務局スタッフが多くてよかった。子どもたちの導き役は、ハイカーとして参加してくれていた長谷川さんが完璧に担ってくれた。参加者の親子もみんなフレンドリーな人ばかりで助かった。このトレイルはたくさんの人に支えられているけど、今回の現場もやっぱり関わる多くの人に支えられた。誰か1人が倒れても、依存先がたくさんあるから全部ダメになることはない。トレイルの運営もまさにそうだ。1,025kmの沿線に多くの味方が増えつつある。そのみんなに支え続けてもらえるように、「みんな」を増やすようにしなくちゃいけない。
子どもたちはお父さんやお母さんと頑張って歩いた。島甚句の体験もした。この船はどのお魚を取る船? という地元の人のクイズには飛びついた。わー、きれい! 面白い、と同時に、「昔、ここには商店街があったんだけど、流されちゃったんだ」という話も聞く。きっと7歳にはよくわからない。まだ、生まれていなかった。でも、語り継いでいくことがこのトレイルの役割のひとつ。もしかれらの脳裏に、この歩く旅の道の楽しい記憶を残すことができたら、もう少し大きくなって、また歩きにきてくれるかもしれない。その時は、また少し、別の見方ができるかもしれない。記憶のどこかに、今回の話が残るかもしれない。このツアーを通して、まずはこのトレイルを知ってもらって、歩く楽しさを知ってくれれば、まずは成功。

11月22日(日)

天気|晴れ時々曇り 

場所|宮城県気仙沼大島→東京

前の晩、スーパーで買っておいた食材を、長谷川さんに使い方の説明からしてもらったガスバーナーでわーわー言いながら調理し、地元の牡蠣を蒸していただいた。牡蠣漁師の小松さんも顔を出してくれて、親子共々ヘトヘトであっという間に寝てしまった。初めてのテント泊の家族ばかり。外気温4℃。寒いかな〜〜と心配していたけど、子どもたちは朝6時には元気いっぱいテントサイトを走り回っていた。すごいな〜〜。
今日は子どもたちを先頭にしてみた。ハイカー長谷川さんのアイデア。歩きながらよくみているなぁと感心する。子どもは先頭で親の目を離れてのびのび。大人は子どもを事務局に任せてのんびり地元の方とお話。子どもに合わせて時間配分をしていたのに元気いっぱいで先頭を走り、大人が置いていかれる始末。
2日間で、小さな島をぐるっと一周歩ききった。お父さんも、お母さんも、子どもたちも、長く歩く旅が好きになってくれたらいい。そしてまた、東北の沿岸をただ歩きにきて欲しい。歩きながら、地域のみなさんと自然と交流できたらいい。曲がったままのガードレールや古い土砂が詰まった道端の側溝にそっと気がついたり、古い街並みの小さな丘を降ると目の前に現れる新しい町に気づいたり、潮位表を見ないでいったら通れない砂浜のルートに出くわしたり、畑の大根を抜いてみたいなあと思ってみたり、あわび漁をする漁師さんの船を遠くから眺めたり・・・毎日異なる風景を歩き、小さな気づきを積み重ねる「歩く旅」の面白さにハマる人が増えたらいい。今週も、数えきれない人のお世話になって過ごした。東北に恩が増える一方だ。

日記は今日が最後。あんまり日記っぽくならなかった。11月8日からの出張も今日でようやく終わり。これから2週間ぶりに家に帰る新幹線の中。さて、娘は元気だろうか。

バックナンバー

2020

6

  • 是恒さくら(美術家)
  • 萩原雄太(演出家)
  • 岩根 愛(写真家)
  • 中﨑 透(美術家)
  • 高橋瑞木(キュレーター)

2020

7

  • 大吹哲也(NPO法人いわて連携復興センター 常務理事/事務局長)
  • 村上 慧(アーティスト)
  • 村上しほり(都市史・建築史研究者)
  • きむらとしろうじんじん(美術家)

2020

8

  • 岡村幸宣(原爆の図丸木美術館 学芸員)
  • 山本唯人(社会学者/キュレイター)
  • 谷山恭子(アーティスト)
  • 鈴木 拓(boxes Inc. 代表)
  • 清水裕貴(写真家/小説家)

2020

9

  • 西村佳哲(リビングワールド 代表)
  • 遠藤一郎(カッパ師匠)
  • 榎本千賀子(写真家/フォトアーキビスト)
  • 山内宏泰(リアス・アーク美術館 副館長/学芸員)

2020

10

  • 木村敦子(クリエイティブディレクター/アートディレクター/編集者)
  • 矢部佳宏(西会津国際芸術村 ディレクター)
  • 木田修作(テレビユー福島 報道部 記者)
  • 北澤 潤(美術家)

2020

11

  • 清水チナツ(インディペンデント・キュレーター/PUMPQUAKES)
  • 三澤真也(ソコカシコ 店主)
  • 相澤久美(建築家/編集者/プロデューサー)
  • 竹久 侑(水戸芸術館 現代美術センター 主任学芸員)
  • 中村 茜(precog 代表取締役)

2020

12

  • 安川雄基(合同会社アトリエカフエ 代表社員)
  • 西大立目祥子(ライター)
  • 手塚夏子(ダンサー/振付家)
  • 森 司(アーツカウンシル東京 事業推進室 事業調整課長)

2021

1

  • モリテツヤ(汽水空港 店主)
  • 照屋勇賢(アーティスト)
  • 柳谷理紗(仙台市役所 防災環境都市・震災復興室)
  • 岩名泰岳(画家/<蜜ノ木>)

2021

2

  • 谷津智里(編集者/ライター)
  • 大小島真木(画家/アーティスト)
  • 田代光恵(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部 プログラムマネージャー)
  • 宮前良平(災害心理学者)

2021

3

  • 坂本顕子(熊本市現代美術館 学芸員)
  • 佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

特集10年目の
わたしたち