Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021

連載東北からの便り

2020年リレー日記

2020

11

11月9日-15日
三澤真也(ソコカシコ 店主)

11月9日(月)

天気|雨 

場所|奥会津・三島町のゲストハウス

奥会津・三島町。朝起きると雨が降っている。そういえば、朝6時にいつも流れる町内放送のチャイムと雨音が一つに混ざり合っている音が夢うつつに聞こえていたことを思い出す。今日は休みなので、しばらく布団でうだうだしてみる。それでも7時半くらいには起きて、隣の珈琲焙煎小屋の2階にパソコンを持って行き、iTunesから音楽をかけて、実家で使わなくなっていたからもらってきたエアロバイク(ありがちな話だ)に乗りながら、窓から見える少し盛りを過ぎた紅葉の山を眺める。ピークを過ぎたとはいえ、鮮やかな赤と黄色の紅葉が目を惹く。30分くらい漕いでいると、自分と山(山までは500mくらいの距離がある)の真ん中くらいに虹が掛かった。虹は11分すると消えた。虹が11分程度で消えるものだとは、41年生きて来たが知らなかった。まぁ、虹が1時間も2時間も出ていたら有難くもなんともないものになってしまうだろう。「11分」。虹が現れてから消えるまでの時間。なんとなく腑に落ちる時間だと思う。 
10時になると、地域おこし協力隊のFくんが訪ねてくる。珈琲焙煎を教える約束をしていたのだ。1回目はやり方を説明しながら僕が焙煎して、2回目は彼に焙煎してもらった。なぜだか自分で焼いた豆より、彼が焼いた豆の方がうまく焼けた。そのあとFくんが焙煎した方の豆で珈琲を淹れて、飲みながら話をした。話題は最近奥会津に移住してきたかれの彼女の話になった。
彼女は東京電力福島第一原子力発電所近くの大熊町出身で、大熊のためになる仕事がしたいと前々から漠然と思っているという。大熊でどうしたら生活できるかについて二人でよく話しているそうだ。そんな話を聞きながら僕は、どうしてまだまだ前途多難な大熊町へ帰りたいんだろうな? と思った。震災当初まだ10代だったその彼女は、今でも大熊が大好きだとFくんによく話すみたいだ。そんな彼女の幼少期の記憶。そして、その記憶と震災。その現実を避けて(忘れて)他の場所で生きるよりも、たとえ色々大変だったとしても、その現実と向き合った人生を選ぶ方が、自分が納得できるということなのかな。そんなことを想像して、なんだか勝手に共感していた。

11月10日(火)

天気|曇り

場所|会津若松の自宅、奥会津のゲストハウス

奥会津に来て10年目になるけれど、3年くらい前から妻が会津若松で仕事をしていることもあって、車で1時間ほど離れた奥会津と会津若松の二地域居住生活が続いている。今朝は会津若松で目覚めて、少し片付けをしてから朝食を済ませて、昨日自分で焙煎した珈琲豆の試飲も兼ねて珈琲を淹れた。少し雑味を感じて上手くいかなかった理由について考える。その後、それを水筒へ入れて車で奥会津へ。道中、会津盆地の田園風景や峠を越える山の中の秋の色彩がとても美しかった。
奥会津に着くと、ゲストハウスの掃除をして、今日の宿泊客の布団を敷く。午後からは農泊事業の打ち合わせ。昨年度から行政と奥会津・三島町でお店をしている仲間が中心になって、この地域に人を呼び込みことを目的にした観光系の事業だ。今日は東京からこの事業を手伝ってくれている関係者もきて、全国の成功事例の話を聞き、今後の進め方について協議した。
夕方からは、同事業の一環で進めている、オンラインや飲食店で利活用できるスチームコンベクションオーブンを使った食の商品開発試食会。この方法で調理すると殺菌ができるため長期保存が可能になる。今回はこの試食会の料理人として、僕のゲストハウス立ち上げから手伝ってくれている仲間のOくんに愛媛から来てもらった。このために来たというよりは、Oくんは会津の方と結婚して、彼女の出産のタイミングに合わせてちょうど会津入りしていたのでお願いしていた。本業は珈琲の焙煎士で僕の珈琲焙煎の先生なのだが、飲食経験も10年近くあって、とてもセンスの良い料理を作ってくれる。
今回は、会津地鶏を中心に地域食材を使ったイノベーティブなレシピを事前にオーダーしていて、12品も用意してくれた。印象に残って商品化してみたいなと思ったのは、「干し柿くるみバター」「会津地鶏のリンゴ煮」「会津地鶏のプリン」、それから「栗と椎茸のリゾット」も美味しかったな。その日はそのままそれをつまみにしながら、飲み会になって終了。

11月11日(水)

天気|曇り

場所|奥会津・三島町のゲストハウス

今日は奥会津・三島町にて目覚める。朝起きると昨日料理をお願いした焙煎士のO君が朝からウチの焙煎機で珈琲を焙煎することになっていたので、一緒に焙煎小屋へ。地域おこし協力隊のFくんも合流して一緒に見学。小屋の窓から何気なくいつもの山をみると、山の上の方に雪が積もっていて一同驚く。昨日まで「紅葉きれいだなぁ〜」と目を奪われていたのだが、そうしているうちに冬は静かに忍び寄る。
Oくんに解説してもらいながらの焙煎は、大変面白かった。焙煎機の構造や豆の煎られていく過程を想像できる説明。理解が深まっていく。焙煎が終わると、焼いた豆を試飲するためにOくんに珈琲を淹れてもらう。この珈琲の淹れ方も目から鱗だった。前に教えてもらった淹れ方と180度違うような淹れ方をしている。そのことを指摘して「今までの淹れ方と全然違うじゃん!」と僕がいうと「時代は前に進んでいるんですよ」と年下のOくんに言われて撃沈。
その後、昨日に引き続き農泊事業の打ち合わせ。事業自体は今年度終了するため、その後のヴィジョンについて協議したいと思い、場を設けてもらったけれど、事前に僕が用意したイメージ図が少し個人的な事業イメージにより過ぎていたみたいで、なかなか話が進展せずちょっと反省。
午後はなんだか煮詰まって来たので、近くの温泉へ行って、戻って来てから少し休む。夕方暗くなると、近所のおじちゃんがやって来て、「飲むベぇ!」と誘われたので、おじちゃんのお宅にお邪魔して夕ご飯をご馳走になる。原木なめこのお吸い物が美味しかった。

11月12日(木)

天気|晴れ

場所|奥会津、西会津・野沢地区

奥会津・三島町。シャワーを浴びて、少し片付けをしてから珈琲を淹れる。見よう見まねで昨日Oくんが淹れていた斬新な淹れ方で淹れてみる。試飲しながら「浅煎りの珈琲豆の淹れ方には良いのかもしれない」と思う。
今日は、お昼前から隣町の西会津で催されている「まちめぐり×えんげき×おいしいごはん」のイベント「銀河鉄道の夜」にOくんと参加してみた。西会津の中心地、野沢地区を歩いて巡りながらも、今はコロナでなかなかできない電車旅をしているかのような演出が其処彼処になされており、最後には美味しいご飯も食べられるという内容だった。
今ウチの法人で受託している事業のひとつに奥会津の食文化を伝える「ガストロノミー」をテーマにした事業があり、自分でも今年度何回か食のイベントを企画していたので、何かしらのヒントや学びがあるかもしれないと思って参加した。イベントは、終始コロナや安全面への配慮があったり、音と風景が混ざり合うような演出が施されていたりと、作り手の感性を感じる繊細で素敵なイベントだった。最後に出てくるご飯も、昔の食堂列車を思わせる仕立てで、ただ美味しいものを食べるだけでなく、その周辺や時間軸の奥行きを感じるストーリーまで伝えることは、参加者に豊かな付加価値をもたらしてくれた。こうした在り方は、これからの食のスタンダードになっていくんじゃないかな、と思った。
イベントが終わってから、このイベントを企画している友達が蔵を改修したお店まで案内してくれて「こしばがコーヒー」さんが、美味しいコロンビアのコーヒーを淹れてくれた。そのあと、西会津の協力隊の友達が今度始める予定のセンスの良い「おみやげや」の場所まで案内してくれた。
昨日、自分の住む地域のヴィジョン共有をする打ち合せの時にも同じ目的のお店を作りたいという話が出たけれど、なかなか具体的に話は進まなかった。それが西会津ではその話が具体的に動き出している。その遅れを感じながらも「結局、人だよなー」と思いながら帰宅。なぜだか少し勇気と元気をもらえた。

11月13日(金)

天気|雨

場所|会津若松、奥会津

会津若松にて起床。今日は、昨日とは違うタイプのコーヒーサーバーでOくんのあら技ドリップを試してみる。「うーん、アクが出る。やっぱり今までの淹れ方のほうが良いかもしれない」と思う。珈琲のドリップに関しては、東京の「蕪木(かぶき)」というお店で珈琲を呑んでから最終的にはネルドリップに行き着きたいと思っていて、ネルドリップも買ってあるのだが、どうしてもせわしない日常に負けて未だにちゃんとトライ出来ないでいる。まぁ、なんにせよ、珈琲についてあれこれ考えている時間は日常の中の小さな幸福だ。
昨日の夕食の鍋の残りで朝食を簡単に済ませ、12月からソコカシコ(僕が奥会津で営んでいるゲストハウス&レストラン)で定期的に受け入れるバスツアーの団体ランチに使う紙皿の漆塗り。大きな声では言えないが、某メーカーの使い捨てのデザイン紙皿に漆を何回か重ね塗りすると、趣がある、落としても割れない、スタッキングできて場所を取らない、軽い、といった三拍子では効かないくらい利便性の高いお皿が出来上がる。以前ソコカシコに泊まりに来てくれた大学の先生が竹を原料にした紙皿に漆を塗っていて、だったらいけるんじゃないか? と思い試作したところ、いけそうだったので今回制作してみている。
作業が終わると奥会津へ。今日は通常なら営業日なのだが、シェフがぎっくり腰をやってしまい動けないということで臨時休業にした。それでも岐阜で18年地域づくりをしているNPO法人ORGANのKさんが泊まらせてほしいと急遽連絡が来たため、ちょっと色々話したいな、と思ったこともあり受け入れることに。
夜、Kさんがチェックインして、そのあと飲みながら色々とこの地域についての戦略会議。大変面白かった。

11月14日(土)

天気|晴れ

場所|奥会津、三島町と金山町

奥会津・三島町。朝起きて、小屋の窓から外を見ると、裏の畑に猿が! 最近このあたりに出て来て、かぼちゃを2つ抱えていたなどの目撃情報が流れていたけど、とうとう裏の畑にまで出て来たか。昨日から泊まっていたKさんの朝食を作って、珈琲を淹れる。そのあと朝食を食べながら、昨日の話の続きを1時間程度する。おかげさまで色々と今後の事業の優先順位や進め方が整理されて来た。
Kさんが10時過ぎに帰ると、ゲストハウスの片付けと掃除をして、昼食を簡単に済ませ、午後からアウトドア系の雑誌に「奥会津最後のマタギ」というタイトルで連載がある隣町の猟師・猪俣さんのところへ。昨年度から、奥会津山文化研究所(山文化研)を立ち上げて、山文化継承を目的にした20〜40代のチームを作って、地元の猟師さんなどに山の入り方などを教えてもらっている。今日は、狩猟期間中雪山に入る際には必須アイテムのかんじきづくりを教えてもらう予定だ。現場に着くと明日から狩猟シーズン解禁ということもあり、猪俣さんやお弟子さんの他にもいわきの方からも何人か来ていた。
かんじきづくりは、昔は根曲がり竹を炭焼きの時の熱で温めて竹を柔らかくして丸めたそうだが、今は炭焼き小屋がほとんどなくなってしまったので、大きな鍋にお湯を沸かしてそこで温めて曲げる。今回は時間がなかったので、その行程はあらかじめ猪俣さんたちがやっておいてくれた。鉈で竹を削って丸くした竹の噛み合わせを丁度よくしてから針金で止めていく。無心に手を動かす作業がとても楽しい。最近は頭ばかり使っていたなぁ〜、と少し反省。16時頃にやっとある程度形になったところで今日は終了。
そのあと温泉に寄って、今夜はOくんがぎっくり腰でダウンしたシェフのピンチヒッターとしてシェフを勤めてくれることになっていたので、山文化研のメンバーと一緒にゲストハウスへ戻る。Oくんが友人の持って来たイノシシ肉をオーブンで焼いてくれ、美味しい料理を振舞ってくれた。町の人たちも沢山来てくれて、泊まりのお客さんもとても愉しそうだった。宴は続いていたが、23時頃、一足先に就寝。

11月15日(日)

天気|晴れ

場所|奥会津のゲストハウス、会津若松の自宅

奥会津・三島町。今日は朝起きてしばらくすると、Oくんが朝食と自分で焙煎した珈琲を用意してくれた。Oくんや妻、友人とわいわい朝ごはんを食べながら雑談。Oくんは1月まで会津に滞在予定だが、来週パートナーの出産予定日ということもあり、しばらく落ち着くまでは奥会津へは来られなくなる。今までは愛媛からやって来ると1ヶ月くらい滞在して、寝食を共にしながら焙煎指導や出張料理人として力になってくれていたけど、今年は愛媛でお店を始めたり子供が生まれたりと、なかなか今までのように自由が効かなくなってきた。それは歳を重ねる中で起こって来る自然の流れで仕方がないことだよな、とは分かりつつ、それでもやっぱり少し寂しいな、とも思う。そんな漠然とした思いを内心抱きながら、昨日提供してくれた料理のレシピを聞いたり、最近僕が考えているこの地域の今後のイメージなどを共有した。
しばらくしてOくんと友人が帰ると、少し掃除をしてから妻と温泉へ。天気が良いこともあって温泉は結構混んでいた。お店に一度戻ってから火の元を確認して会津若松へ。日曜の午後は休むことにしているので、家に帰るとOくんがお裾分けしてくれた昨日の料理の残りを食べながら妻とワインを飲んだ。
気がついたら寝ていて、起きたらもうあたりは暗くなって来ていた。明日朝から入っている旅行業の研修会の詳細を主催者に確認すると証明写真がいるというので、近くのTSUTAYAにある証明写真の機械まで写真を撮りに行き、コンビニに寄って戻る。奥会津に証明写真の機械なんかないから、会津若松まで戻って正解だった。どうやら明日の研修会は、なんかの資格が取れるのか? ただの勉強会程度のものだと思っていた。戻ってくると特にお腹も空いていなかったので、テレビを観ながらお店で使うワインをネットで注文。妻はテレビを観ながら爆笑している。明日は朝から早いので12時前には就寝。

バックナンバー

2020

6

  • 是恒さくら(美術家)
  • 萩原雄太(演出家)
  • 岩根 愛(写真家)
  • 中﨑 透(美術家)
  • 高橋瑞木(キュレーター)

2020

7

  • 大吹哲也(NPO法人いわて連携復興センター 常務理事/事務局長)
  • 村上 慧(アーティスト)
  • 村上しほり(都市史・建築史研究者)
  • きむらとしろうじんじん(美術家)

2020

8

  • 岡村幸宣(原爆の図丸木美術館 学芸員)
  • 山本唯人(社会学者/キュレイター)
  • 谷山恭子(アーティスト)
  • 鈴木 拓(boxes Inc. 代表)
  • 清水裕貴(写真家/小説家)

2020

9

  • 西村佳哲(リビングワールド 代表)
  • 遠藤一郎(カッパ師匠)
  • 榎本千賀子(写真家/フォトアーキビスト)
  • 山内宏泰(リアス・アーク美術館 副館長/学芸員)

2020

10

  • 木村敦子(クリエイティブディレクター/アートディレクター/編集者)
  • 矢部佳宏(西会津国際芸術村 ディレクター)
  • 木田修作(テレビユー福島 報道部 記者)
  • 北澤 潤(美術家)

2020

11

  • 清水チナツ(インディペンデント・キュレーター/PUMPQUAKES)
  • 三澤真也(ソコカシコ 店主)
  • 相澤久美(建築家/編集者/プロデューサー)
  • 竹久 侑(水戸芸術館 現代美術センター 主任学芸員)
  • 中村 茜(precog 代表取締役)

2020

12

  • 安川雄基(合同会社アトリエカフエ 代表社員)
  • 西大立目祥子(ライター)
  • 手塚夏子(ダンサー/振付家)
  • 森 司(アーツカウンシル東京 事業推進室 事業調整課長)

2021

1

  • モリテツヤ(汽水空港 店主)
  • 照屋勇賢(アーティスト)
  • 柳谷理紗(仙台市役所 防災環境都市・震災復興室)
  • 岩名泰岳(画家/<蜜ノ木>)

2021

2

  • 谷津智里(編集者/ライター)
  • 大小島真木(画家/アーティスト)
  • 田代光恵(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部 プログラムマネージャー)
  • 宮前良平(災害心理学者)

2021

3

  • 坂本顕子(熊本市現代美術館 学芸員)
  • 佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

特集10年目の
わたしたち