Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021

連載東北からの便り

2020年リレー日記

2020

10

10月12日-18日
矢部佳宏(西会津国際芸術村 ディレクター)

10月12日(月)

天気|曇り

場所|西会津国際芸術村(福島県・西会津町)

体が重い。深夜3時まで仕事をしていたせい。
東京に住む大切な知人の夫が亡くなったということで、西会津町の共通の知人から問い合わせがたくさん来る。コロナ禍で東京の葬儀に参列するのは、少し気が引けてしまうのだが、先方も家族葬にしたいらしく、香典とお花を送ることにした。ふと、震災後の福島での葬儀参列は、“少し気がひける”ということになった人も多いのかもな、と思う。

仕事場の西会津国際芸術村へ移動。増え続ける案件の数。コロナ禍で社会がリモートに慣れた結果、会議や打ち合わせの数が数倍に増えている。それまで集中して仕事を片付けられる時間が夜中だったのだが、そこに打ち合わせが入るので、より一層忙しくなる。もともと山奥のリモート地で仕事をしてきた私のところには、アフターコロナの社会像に関する相談や、移住・多拠点居住についての相談が増えるようになった。
人手が足りない。スタッフや地域おこし協力隊、インターンの数も増えた。急に20代が多くなり、とても賑やかだ。そういえば、今集まって来る20代からは、西会津町の放射線量について聞かれることがなくなった。確か4、5年前ぐらいまでは、よく聞かれていた気がする。

10月13日(火)

天気|曇り

場所|西会津国際芸術村(福島県・西会津町)

久しぶりに打ち合わせが少なく、デザインの仕事に没頭。このところ、スタッフからの相談や指示、もしくは相談に来る人たちとの打ち合わせばかりだったので、デザインの仕事に癒しを感じる。

今日も草刈りの時間がとれなかった。野生動物が家に近くなる。震災後に急に増えたイノシシの数。それまではいなかった。玄関のすぐ前までくる。掘り返されたあぜ道を見ながら、ため息をつく。

10月14日(水)

天気|曇り

場所|西会津国際芸術村(福島県・西会津町)

「アートの多様性を理解する人が少ない」と訴える高校生がいる。
彼はインターネットで授業を受ける高校に通っている。数ヶ月前、アートの多様性を伝えるフリーペーパーを制作したいとメールが届き、それ以来相談にのっている。
今日は彼が僕に取材をする日だった。クラウドファンディングでいくばくか有名になったらしく、僕に取材をする彼を取材するNHKのクルーが一緒にやってきた。
カメラをずっと向けられていても、彼の質問や会話はいつも通り。すごく緊張した様子だったけど、高校生であっても、魂で語って来る人間は、周りに誰がいようが、言いたいことや聞きたいことをきちんと伝えられるんだろうな。
僕が高校生の頃は、そこまで明確に言語で伝えることはできなかった気がする。
正しいとか正しくないとかではなく、矛盾や疑問を感じ、それをはっきりと表現できることは、とても尊いことだと思う。一方で、それが難しいこと、凄いことのようになってしまっているのが、とても歯痒い。

10月15日(木)

天気|晴れ時々曇り

場所|西会津国際芸術村(福島県・西会津町)

集落に一人しか残っていない状況になっても、幸せに暮らせるか。そんなテーマで、福祉に関わる方とお話をした。年寄りでも、若くても、生き生きと暮らすには、受け身より能動的であることが大事と思う。

今年100歳であの世へいった爺さんのことを考える。93歳から97歳まで一緒に暮らした。96歳ぐらいから体の動きが鈍くなり、家の中でぐったりと椅子に腰掛けるか、布団で横になることが増えたが、庭や畑の草むしりはできていた。どんなに体が衰えても、草ぐらいには負けない。花や野菜の面倒を見ることぐらいはできる。人間、人の世話になるだけだと、どんどん弱るらしい。100歳近い年寄りが、直接若者の役に立つのは難しいけど、花や野菜が育つことの役には立てる。
集団で生きる命は、何かの役に立てるということが、能動的に生きる根源的なエネルギーを生むのかもしれない。

10月16日(金)

天気|晴れ

場所|NIPPONIA楢山集落(福島県・西会津町)

あるメーカーさんが、自社の製品写真を撮るのに、うちの宿を使いたいという。
私で19代目となる集落に点在する2つの建物を、古民家ホテルとしてリノベーションしてオープンからまる一年が過ぎている。この一年、様々な方々が集落を訪れてくれた。360年の集落の歴史の中で、もしかしたら、これだけ多様な地域の方々が訪れてくださったことはなかったかもしれない。

この集落がなかったら、今頃日本には居なかった。2011年3月11日は、カナダ在住だったが、たまたま東京に来ていた。それから6ヶ月、悩みに悩んだ。自分ができることとは。自分にしかできないこととは。集落に住み始めてからもう8年ほど経とうとしている。

メーカーの皆さんを山の神さまに案内しながら、土地のストーリーをお話しして歩いた。宿の各部屋に込めた意味や、風景を取り込むしかけなど、いつも通り説明する。
山を歩きながらいつもくやしいのは、そのあたりに生えている野生キノコを売ることができないこと。土手を掘り返すイノシシを仕留めても、食肉として流通することができないこと。毎日の暮らしの中で、線量を意識することはまだやめられない。

10月17日(土)

天気|曇り

場所|西会津国際芸術村(福島県・西会津町)

町の教育委員に任命されたので、中学校の文化祭を見学させていただいた。とてものびのびと、豊かな表情で、楽しそうに表現する中学生の姿がとても印象的だった。そして、その子供達を引っ張る先生の生き生きとした表情もまた良い。
過疎地の学校では、どんどん人数が減る。わが町の子供は、一学年で多くても40人いない程度。2クラスにするのがやっとだ。人数が多いから必ずしも良いとは限らないが、やはり少なくなっていくのはとても寂しい。
この子たちにとって、故郷とは、わが町とは、どう見えているのだろうか。
あと5、6年もすれば、成人。この町は、その時にかれらが自分の人生を紡ぐステージとして選ばれるのだろうか。願わくば、かれらに「選ばれる」なんて消極的なことじゃなくて、かれらが、どんどんこの町に人を引っ張ってくるようになったら頼もしいなあ、と淡い夢を抱く。

午後は、「第15回 西会津国際芸術村公募展2020」の表彰式。受賞者を歓迎する太鼓がムラじゅうに鳴り響く。近所のおばあさんたちも太鼓の音を聞きつけて集まって来た。表彰式には、受賞した高校生たちが東京からもはるばる駆けつけてくれた。このコロナ禍で、地方に移動するという機会がなかなかなかっただろうから、この町も、公募展も、印象に残るだろう。
西会津町教育長がご挨拶の中で、ヨーロッパでペストが大流行し、社会の構造が大きく変化せざるをなくなり、その後にルネサンスが起こったお話しをされた。また、ペストでケンブリッジ大学が休校になって田舎に戻ったニュートンが万有引力を発見した例を取り上げ、ニュートンが後に「この休校期間が、創造的休暇であった」と語った言葉を引用されていた。
この先の未来で、このコロナ禍が「創造的休暇であった」と言えるかどうかは、今何をするか次第だ。

10月18日(日)

天気|晴れ

場所|西会津国際芸術村(福島県・西会津町)

朝から客足が絶え間ない。昼食を食べる時間がまとまって取れないほどに、次から次へと、西会津国際芸術村公募展を観覧にお客さんがやって来る。
今年の公募展は、コロナで実施するかどうか迷った。迷いに迷い、結論を出すまで準備が開始できなかったこともあり、結果、通常より1ヶ月遅れで開催することとした。
県内の公募美術展が軒並み中止となったためか、今年度は例年に増してたくさんのお客さんがいらっしゃる。遠出するよりも近場に行こうという人も多いのだろうと思う。

公募展に出品される絵画の雰囲気は、世相を表しているように思う。震災直後の公募展では、何かとても暗く大きな壁にぶち当たったような、ショックを受けたような作品が多かったと記憶している。そして、このコロナ禍に集まった作品たちには、社会に対する課題意識や違和感を表現したいというエネルギーを感じた。
思えば、あの時、今の私の娘の年齢、すなわち小学校低学年だった子たちが、こうやって高校生になって、社会の中で感じていることを表現している。2度目の大きな衝撃。

アートの力というのは、様々な社会状況、経済状況の中で、たとえ社会や自分を取り巻く状況に鬱屈とし、監視的に感じられ、閉塞感があったとしても、心の中から湧き出るエネルギーを以って、自分自身がそこに立っていること、存在していることを表現することでもあり、その表現はとても繊細で弱々しく見えるかもしれないけど、もっとも逞しく、力強い、生きる力そのものだと思う。
たとえこの地が、利便性、経済性、人口、高齢化率……世の中の価値基準の中でどんなに低いポジションに位置付けられたとしても、本当に衰退した地域となるかはどうかは、前向きな心のエネルギーがどれだけ多くそこに集まるかどうかにかかっていると思う。その意味でも、今回の公募展は、このような山奥に芸術の力が集まることの重要性を再認識させられた。
というようなことを、昨日の表彰式で、実行委員会を代表してご挨拶させていただいた。

バックナンバー

2020

6

  • 是恒さくら(美術家)
  • 萩原雄太(演出家)
  • 岩根 愛(写真家)
  • 中﨑 透(美術家)
  • 高橋瑞木(キュレーター)

2020

7

  • 大吹哲也(NPO法人いわて連携復興センター 常務理事/事務局長)
  • 村上 慧(アーティスト)
  • 村上しほり(都市史・建築史研究者)
  • きむらとしろうじんじん(美術家)

2020

8

  • 岡村幸宣(原爆の図丸木美術館 学芸員)
  • 山本唯人(社会学者/キュレイター)
  • 谷山恭子(アーティスト)
  • 鈴木 拓(boxes Inc. 代表)
  • 清水裕貴(写真家/小説家)

2020

9

  • 西村佳哲(リビングワールド 代表)
  • 遠藤一郎(カッパ師匠)
  • 榎本千賀子(写真家/フォトアーキビスト)
  • 山内宏泰(リアス・アーク美術館 副館長/学芸員)

2020

10

  • 木村敦子(クリエイティブディレクター/アートディレクター/編集者)
  • 矢部佳宏(西会津国際芸術村 ディレクター)
  • 木田修作(テレビユー福島 報道部 記者)
  • 北澤 潤(美術家)

2020

11

  • 清水チナツ(インディペンデント・キュレーター/PUMPQUAKES)
  • 三澤真也(ソコカシコ 店主)
  • 相澤久美(建築家/編集者/プロデューサー)
  • 竹久 侑(水戸芸術館 現代美術センター 主任学芸員)
  • 中村 茜(precog 代表取締役)

2020

12

  • 安川雄基(合同会社アトリエカフエ 代表社員)
  • 西大立目祥子(ライター)
  • 手塚夏子(ダンサー/振付家)
  • 森 司(アーツカウンシル東京 事業推進室 事業調整課長)

2021

1

  • モリテツヤ(汽水空港 店主)
  • 照屋勇賢(アーティスト)
  • 柳谷理紗(仙台市役所 防災環境都市・震災復興室)
  • 岩名泰岳(画家/<蜜ノ木>)

2021

2

  • 谷津智里(編集者/ライター)
  • 大小島真木(画家/アーティスト)
  • 田代光恵(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部 プログラムマネージャー)
  • 宮前良平(災害心理学者)

2021

3

  • 坂本顕子(熊本市現代美術館 学芸員)
  • 佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

特集10年目の
わたしたち