Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021

連載東北からの便り

2020年リレー日記

2021

2

2月15日-21日
田代光恵(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部 プログラムマネージャー)

2月15日(月)

天気|雨のち曇り

場所|千代田区神田、神奈川県相模原市

朝、6時5分発の通勤電車に乗って東京へ。最近はほぼ在宅勤務なのだが、インターネットがつながらなくなったので事務所へ。朝はやっぱり混んでいる中央線。

2月13日に起きた福島県沖地震について関係者に連絡しようと思っていると、「石巻市子どもセンター らいつ」の職員さんから着信。地震の被害はなく、通常通りオープンしているとのこと。よかった。電話の趣旨は「今度、昔の子どもまちづくりクラブメンバーで、ビデオメッセージのリメイク版を作るので協力してほしい」というもの。電話をかけてきてくれた職員さんに初めて会ったとき、彼女は中学1年生。今もこんな風につながれて、声をかけてくれるなんてうれしい。何を話そうかソワソワ。

今日は、岩手県山田町・宮古市、宮城県石巻市で行っている子ども給付金の事務が主な仕事。新入学や高校生活にかかわる家庭の経済的負担を軽減するために、2016年から行っている。申請のあった保護者から寄せられた声を読む。

「東日本大震災で被災し経済的に大変な思いをしてきましたが、自営業で飲食店を営んでる私共は、コロナ禍で打撃を受け益々大変な思いをしています! 一日も早い終息を願います」(ふたり親家庭、父)

「若布や昆布の養殖加工をして売っていたけれど、コロナのせいで売り上げ余りなく、政府の補助金は、私たち個人事業者には、あまり保障していただけない」(ふたり親家庭、母)

「格差社会が広がり強者弱者がはっきりしてきた。公助がもっともっと必要だと思います」(ひとり親家庭、父)

震災とコロナ、水産加工業、「公助」を求める声が目に留まる。私たち支援者の役目は、こうした声を届けて、どんな社会をつくっていくべきなのか、多くの人々に問いかけること。

今朝は雨だったけれど帰路にはもう止んでいて、電車の中でSNSを見たら虹の写真がちらほら。いいなぁ、私は神田のビルにこもっていて何も見ていない。でもいいや、インターネットサーバーはつながるようになった。

2月16日(火)

天気|晴れ

場所|神奈川県相模原市

今朝は小学校の登校班の付き添いで、7時25分に出発。片道約40分、なまった体に程よい運動(と信じている)。付き添いの時には、毎朝見守りをしてくれているご近所さんと天気の話をするのが日課。「今日はあたたかいね」と声を掛け合う。

今日は、セーブ・ザ・チルドレンの東日本大震災10年のウェブサイトに寄せる職員メッセージの締め切り日。サイトには子どもまちづくりクラブなど、子ども参加によるまちづくり事業に参加した子どもたちが社会人、大学生、高校生になった今、活動を振り返るインタビューが載っている。
2011年6月にはじまった子どもまちづくりクラブ。岩手県山田町・陸前高田市、宮城県石巻市で、小学4年生から高校生までが地域の復興に向けて活動した。

子どもの権利条約の中では、子どもの意見表明権は特に大切な権利の一つで、それは緊急事態でも保障されるべきであるとされている。けれど、震災直後は避難所で生活する方も多く、行方不明になっている方の捜索も続いていた時期。そんな中、子どもたちに復興について聞いてもいいのか、まちづくりを考えられるのか、という迷いもあった。それでも、呼びかけにこたえて集まった子どもたちからは、「自分たちの地域が好き」「地域のためになにかしたい」という声がきかれた。

子どもたちが声を伝える場と時間をつくること、そのために無我夢中だった気がする。子どもたちの思いを復興の中で実現するにはどうしたらいいのか、子どもたちと職員と互いに知恵を出し合った。当時は体力もあったし。

そうしたことをつらつらと思い出しながら、インタビュー記事を読む。夕食を食べ終わって一息ついたところで、なんとか宿題のメッセージを提出。ウェブサイトの子どもたちのインタビュー、ぜひ多くの方に読んでもらいたい。

2月17日(水)

天気|晴れ

場所|神奈川県相模原市

朝起きたら、トイレが凍っていた。実は先週の金曜日から、浄化槽の工事のため我が家は一週間仮設トイレ。そのタンクの水が凍ってしまったのである。流れないので仕方なく、じょうろで水をそそぐ。

仮設トイレになって、トイレに行くのがおっくうになった。外は寒いし、和式だし、極力回数を減らしたいと思ってしまう。東北や各地の避難所でも同じような声をきいた。避難所ではさらにトイレとの距離も遠くなるし、夜ともなれば暗い。家族以外の人たちも使用する。子どもたちも、行きたくないから我慢する、行くときは誰かに待っていてもらうと言っていたっけ。その時は分かったつもりだったけれど、同じ状況が24時間我が身に降りかかると実感が違う。このタイミングで気づくことができてよかった。

今朝も小学校の登校班の付き添いで、ご近所さんと「寒いね、骨まで痛いね」と声を掛け合う。庭に咲く白梅と紅梅が太陽の光を浴びている。
在宅勤務で日中は会議続きだったが、その合間に子ども給付金の申請状況を確認。

「これから先の生活がとても不安です。これから先の進路、大学なのか専門学校に進むのかはまだ決まっていませんが、金銭的に余裕がない現在、一人でどうしたらいいのか不安でいっぱいです。コロナで学校が休校等になり、日常の変化で光熱費や生活費の加算がきついのとで、いつもいつも我慢。不安です」(ひとり親家庭、母)

子どもや子育て世帯が抱くいくつもの我慢や不安が思い起こされる。今回の給付金が少しでも役立つことを願いつつ、こうした声に寄り添う社会になるにはどうしたらいいのか考える。

夕方は保育園と学童保育へ子どものお迎え。保育園は来年度年長になるので、保護者会の役員決めの相談をする。今年は大半の行事が新型コロナウイルス感染症拡大によって中止、または縮小した。来年度はどうなっているかな。

2月18日(木)

天気|晴れ

場所|神奈川県相模原市

今朝も寒い。保育園に通っている子どもに「霜柱が出ているよ」と言うと、霜柱って何? ときかれたので、細い氷の柱だよ、と答える。すると「ママがくじ引きで当たった飴のこと?」と返される。何のことだろうと考えて思い至ったのは、東北銘菓「晒(さら)よし飴」。一昨年の社内懇親会で、ある理事が景品として出品してくれたもの。ずいぶん前のことなのによく覚えている。水飴を何度も引き延ばして作られた細い繊維が、確かに霜柱のようだったと納得した。

今日は、「あらためて考える子どもの意見表明権」と題した内部勉強会。東北で子どもたちとともにまちづくりに取り組んでいた際にも協力してくれた、安部芳絵先生(工学院大学)が講師。

勉強会では、石巻市子どもセンターの指定管理者選定の際に全国で初めて行われた、「子ども委員」の活動について紹介があった。セーブ・ザ・チルドレンも子ども委員の活動に協力し、私もファシリテーターを務めた。「職員はどうなるんですか?」「子どもの最善の利益はどうやって守るんですか?」と子ども委員が投げかけた質問を思い浮かべながら、ある子ども委員が伝えてくれた言葉を思い起こした。
「(子ども委員になったことで)社会の一員として、社会に参加しているように思えてうれしかったです。これからも、子どもに活躍する場を与えて下さい。子どもだからできること、子どもにしかできないことだって、きっとあるはずです。子どもは挑戦していきます」

今、私は日本の子どもの貧困問題解決事業の担当をしていて、その解決にも子どもたちの意見が重要だと考えている。どうやって子どもたちの声をきき、社会に届けられるのか、難しいなと悩むことも多いけれど、東北の子どもたちとの経験を思い出したら、なぜか不思議な自信が湧き上がってきた。

2月19日(金)

天気|晴れ

場所|神奈川県相模原市

今日は保育園のお弁当の日。ささっと準備して、続いて登校班の交通安全係。年に一度のこの係は、緑色の交通安全ベストを着て、黄色い旗を持ち、横断歩道で登校を見守るというもの。朝から気持ちよく晴れてはいるものの、日陰はまだ寒い。ひなたに立って子どもたちを学校まで見送る。

今日は初めての方とのオンライン会議があった。いろいろお話を聞いて、いざ自分が話そうというときに、飼い猫がパソコンの前を横切る。先方から笑いが漏れるが、こちらはヒヤヒヤ。在宅勤務でおなじみの光景だろうか。

打ち合わせの合間に事務所から転送電話がかかってくる。今は子ども給付金についての問い合わせがほとんど。これまではすべて郵送での申請受付にしていたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、郵便物の受け取りも従来通りとはいかないので、少しでも早く手続きができるようにオンライン申請としている。電話をかけてきてくれた方にやり方を説明すると、とても安心した様子だった。私たちにとっても新しいチャレンジだけれど、保護者にも初めての経験だろう。他にうまくいくやり方がないか、引き続き模索しないと。

「うちなんかが申請してもいいんでしょうか?」という問い合わせがあった。今度高校1年生になるお子さんのいるひとり親家庭のお母さん。事情を伺うと、今回の給付金の対象にあてはまっている。ご自身も案内用紙で確認したが、それでも申し込みをいったん躊躇され、念のため電話をかけてくださったそうだ。いろいろな取り組みが公でも民間でも行われているが、たとえ対象であっても自分は利用してはいけないのではないか、と思ってしまっている方は少なくない。そうした方たちにどう情報を届けるか、こうした何気ないやり取りから、ヒントをもらえるのではないかと思う。今日の方には、電話をかけてくれたことについて丁重にお礼を伝えた。

2月20日(土)

天気|晴れ

場所|神奈川県相模原市

土曜日はお休みだ。そして今日も快晴。そろそろ花粉が飛ぶ予感、くしゃみが出る。

外に出て何かしようかなと思ったところで、保育園の友人が貸してくれた本が目に留まる。『82年生まれ、キム・ジヨン』。韓国で全世代を巻き込んで社会現象となったフェミニズム小説。ほんの少し、と思っていたのに一気に読了した。日本で生まれ育った私にも痛いほどわかる、女性として生きる苦しさやプレッシャー、得体のしれない天井。その間、子どもたちは父親と一緒にじゃがいもや花の種を植えていた。

お昼ご飯を食べた後、保育園の友だちが遊びに来た。飛び跳ねて遊ぶ子どもたちを横目に、私は薪割りを課せられている。3年半前に今の家に移住してきた。その時、せっかくだからと薪ストーブを設置したのである。

東日本大震災の後、学童保育で聞き取った要望で印象に残ったものの一つに、「電気のいらない昔ながらのストーブが欲しい」というものがあった。震災当日停電が続く中、電気が必要なファンヒーターなどは使えなかったので、マッチやライターで着火する石油ストーブが唯一の暖房器具だったと。それを囲んで、子どもたちと暖を取った、という。
そんなことを薪割りをしながら思い出した。もっとも、私の場合は単に運動不足を解消するために課されているだけなのであるが……。

夕方、水道工事業者が帰って行った。今日は特別な日だ。浄化槽の工事が一段落し、トイレが元通り使用できることになった。たった一週間だけだったが、スリッパのまま行けるトイレがあることに安堵して眠りについた。

2月21日(日)

天気|晴れ

場所|神奈川県相模原市

今朝は月一回の地域の美化清掃。子どもたちも一緒になって、ほうき片手に集合する。ほんの15分で、道端にたまっていた落ち葉やほこりがすっかりきれいになった。保育園児から、70代まで、同じ集落の10数軒が距離を保ちつつ一堂に会す。

東北の子どもたち、それから熊本地震を経験した子どもたちが共通して言っていたこと、それは災害がない時から地域の人とのつながりをつくることの大切さだった。災害後に地域の人同士が助け合ったこと、避難所に行って心細かったけれど地域の知った人がいて安心したことなどを教えてもらった。だから、というわけではないけれど、こうした地域の掃除も、掃除を超えた意味があるんだろうなという気がしている。

日中はオンライン会議をして、子ども給付金の細々した事務作業をする。

「コロナの影響が有り、学校が臨時休校となる日もありました。これからもあるかと思います。そのため、家に居なくてはならなく、仕事もコロナの影響で無くなり、収入も無く、新入学の子どもが2人居ますので、大変です。仕方ない事なのですが、制服やランドセル、その他諸々購入するものもあります。正直、こちらのご支援でも足りません。ですが、少しでも足しにさせて頂きたく、申請しました」(ひとり親家庭、母)

引き続き子育て世帯の厳しい状況が寄せられている。もうすぐ迎える入学は嬉しい季節のはずなのに……。コロナによって一層厳しくなっている子どもたちを取り巻く環境を、できるだけ早くより良くしていきたい、と思いながら、まずは目の前の手続きに集中。

夕食にふきのとうの天ぷらを揚げる。昨日、薪割りを終えた後に庭を散策すると、ふきのとうがいくつも芽を出していたので、子どもと一緒に夢中になってボール一杯にとった。「どうやってとるの?」という父親の疑問に、「根元をこうやってね」と長女が身振りを交えながらこたえていた。ほろ苦い春の訪れを噛みしめながら、日曜の夜は過ぎていく。

バックナンバー

2020

6

  • 是恒さくら(美術家)
  • 萩原雄太(演出家)
  • 岩根 愛(写真家)
  • 中﨑 透(美術家)
  • 高橋瑞木(キュレーター)

2020

7

  • 大吹哲也(NPO法人いわて連携復興センター 常務理事/事務局長)
  • 村上 慧(アーティスト)
  • 村上しほり(都市史・建築史研究者)
  • きむらとしろうじんじん(美術家)

2020

8

  • 岡村幸宣(原爆の図丸木美術館 学芸員)
  • 山本唯人(社会学者/キュレイター)
  • 谷山恭子(アーティスト)
  • 鈴木 拓(boxes Inc. 代表)
  • 清水裕貴(写真家/小説家)

2020

9

  • 西村佳哲(リビングワールド 代表)
  • 遠藤一郎(カッパ師匠)
  • 榎本千賀子(写真家/フォトアーキビスト)
  • 山内宏泰(リアス・アーク美術館 副館長/学芸員)

2020

10

  • 木村敦子(クリエイティブディレクター/アートディレクター/編集者)
  • 矢部佳宏(西会津国際芸術村 ディレクター)
  • 木田修作(テレビユー福島 報道部 記者)
  • 北澤 潤(美術家)

2020

11

  • 清水チナツ(インディペンデント・キュレーター/PUMPQUAKES)
  • 三澤真也(ソコカシコ 店主)
  • 相澤久美(建築家/編集者/プロデューサー)
  • 竹久 侑(水戸芸術館 現代美術センター 主任学芸員)
  • 中村 茜(precog 代表取締役)

2020

12

  • 安川雄基(合同会社アトリエカフエ 代表社員)
  • 西大立目祥子(ライター)
  • 手塚夏子(ダンサー/振付家)
  • 森 司(アーツカウンシル東京 事業推進室 事業調整課長)

2021

1

  • モリテツヤ(汽水空港 店主)
  • 照屋勇賢(アーティスト)
  • 柳谷理紗(仙台市役所 防災環境都市・震災復興室)
  • 岩名泰岳(画家/<蜜ノ木>)

2021

2

  • 谷津智里(編集者/ライター)
  • 大小島真木(画家/アーティスト)
  • 田代光恵(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部 プログラムマネージャー)
  • 宮前良平(災害心理学者)

2021

3

  • 坂本顕子(熊本市現代美術館 学芸員)
  • 佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

特集10年目の
わたしたち