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連載東北からの便り

10年目をきくラジオ モノノーク

第12回
2021年3月13日

話題
オープニングトーク/10年目の手記 part1〜part2〜part3〜part4〜part5/エンディングトーク

オープニングトーク

3月13日、「10年目をきくラジオ モノノーク」の第12回が放送されました。
最終回は3時間特番、10年目の手記スペシャルということで内容盛りだくさん。会場はせんだいメディアテークからお送りしました。

パーソナリティはいつもの通り瀬尾夏美と桃生和成……のはずが、桃生がまさかのダブルブッキングによる遅刻。構成作家の中村大地が代わりに参加し、いつもと違うオープニングトークがはじまりました。

3月11日を瀬尾は陸前高田で迎えたそう。「黙祷の時間」という手記を書いていただいたK.O.さんのメッセージを合わせて紹介しました。みなさんは3月11日をどのように過ごされたのでしょうか。

10年目の手記 part1

part1では社会心理学者で、阪神淡路大震災を記録しつづける会の高森順子さんを迎えて、ひさみさんの「今までと違う」と吉田健太さんの「兄の思い出」の2つの手記の朗読を聞きながら、「10年目の手記」を振り返っていきます。

「回を追うごとにまだウェブ上に集まっていない手記を、別の人が、「こんなのもあるよ」と、いろいろな角度でまるで連句のように重ねていったように感じた。とても充実した手記でした」とは、高森さん。

募集開始当初から終盤までを通じて茨城県の被災体験が多く集まったことについて、「はざまに落っこちてしまいそうな声を、なんとなく共有することのできるコミュニティになっていったのが印象的だった」と瀬尾は語っていました。

10年目の手記 part2

part2では「消えた故郷」という手記の執筆者であるほでなすさんにスタジオにご登場いただきました。

俳優が朗読した手記を「まるで自分が読んでいるかのようだった」と言ったほでなすさんは、手記を書いたことを通じ、自分の中に抱えていたモヤモヤが整理され、スッキリしたそう。また、手記を読んだ友人や地元の同級生から声をかけられ、故郷との距離感も変化した、という話には、瀬尾はじめ中村も高森さんもとても胸を打たれていました。ほでなすさん、ありがとうございました。

ほでなすさんに続いて「10年目の手記」の特別選考委員である民話採訪者、みやぎ民話の会の小野和子さんが登場。震災で被災した小学生時代の出来事を丁寧に綴ったハム太郎さんの「先生とハムスター」という手記を取り上げながら、小学生で阪神・淡路大震災を体験した高森さんの経験と、第二次世界大戦を幼少の頃に体験した小野さんの経験と、種々の災厄が一筋の糸でつながっていくようでした。


高森順子さん(左)と小野和子さん(右)の対話

10年目の手記 part3

ここでようやく桃生が合流。echelonさんの「東北の伴走者」を聞いたあと、今度はこれまで朗読を担当してきた俳優の方々から、青年団に所属する林ちゑさんにお電話をつなぎ、朗読の様子や、実際に手記を声に出すことで感じたことを伺いました。

「書いている人は一人だけど、書かれている言葉は一人のものではなくて、環境などによって書かされているものもある。形のないものが現れるってそういうものだよなあ」と、気づきを語る林さん。その後に話す「私」に関する話もとても興味深かったです。

10年目の手記 part4

再び、高森さん、小野さんを交え、小野春雄さんによる手記「海から離れず生きた10年」の朗読に耳を傾けます。話は、語られたことの周辺にある、語られなかったこと、つまり、まだ手記として書かれていないことの話題に。「わかる・わからないで線引するのではなく、わかりたいという動的な気持ちでありつづける読み手がいれば、そういう場は自然とつくられるし、まだまだ言葉は生まれるはずだと思う」とは高森さん。小野さんは「小さな話が持っている力を私達は見つけていかなくちゃならないと思うんですね。体験したことの辛さや喜びも大切だと思うけれども、その周りに泡のようにある不思議な小さな話が、大きな災厄のあとには生まれてくる。これを大切にしたい」と語りました。

10年目の手記 part5

本当に本当に盛りだくさんな最終回。ここからは東北弁で落語を語る今野家がめらさんが創作落語を披露。水先案内人として佐竹真紀子さんにも登場していただきました。
荒浜にまつわる人々を題材にした「オモイデ(荒浜バージョン)」で会場の空気は一転、笑い声のおこるにぎやかな雰囲気に。なんと、全部語ると3時間近くなるというこの噺。いつか全編聞いてみたいですね。

エンディングトーク

3時間にわたる放送もようやくエンディング。最後はこの企画の親玉でもあり、一番のヘビーリスナーでもある、佐藤李青さんに登場していただきました。「内容盛りだくさんで思わず聞き入ってしまう、聞くのに体力を使うラジオ」であることが良かったという佐藤さん。「3月のこの時期だけではなくて、10年目を月に1、2回定期的に振り返る場があるというのは、すごく意義のあることかなと思った」という佐藤さんに対し、「やっぱり3月11日のタイミングでせわしなく思い出してしまうと、被災地は“被災地”、被災者は大変な人というふうに、自分とはとても遠い出来事として思い出してしまうなと感じていて、定期的にちょこちょこ立ち止まることで、自分の思い出や経験とも重ね合わせて複層的に積み重なっていったと感じています」と瀬尾。桃生は「『世界の今日』みたいにコロナのことを語るコーナーもあって、震災のことも、コロナのこともいろいろグラデーションで感じることができる場だった」と応答。

この1年で、水戸芸術館現代美術ギャラリーでの展示や、北海道テレビでの朗読など、同時代的な反応がありました。最後は「10年目を聞き直すラジオが必要ですね」という続編も期待できるようなアイディアも出て、締め括りとなりました。

1年間聞いていただいた皆様、本当にありがとうございました!
アーカイブで全回視聴できますので、これからもお楽しみください。

ON AIR曲
■ 環ROY「そうそうきょく」
■ さくまひでき「命~2011からのメッセージ」
■ Nami Sato「pray, twilight」
■ 寺尾紗穂「たよりないもののために」
■ GAGLE「I feel, I will」

(執筆:中村大地)

特集10年目の
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